今回の震災における経済的影響を論じる中で、ロシアが日本からの輸入品に対し放射線検査を行い、これが日本からの工業製品輸出に影響を与えるのではないか、という心配が一部にあった。また、長期的に見ても、震災が日本製品に対する信頼感を毀損する、という心配も語られていた。

日本製品のイメージは衰えるどころか良くなる一方

日本車に乗る人に、こういうカーペインティングを施す人は多い。日本という国や車が、ロシア人の心をすっかり奪ったようだ。しかし、車の所有者は案外とあっさりしていて、「まあ、日本車だからこのくらいのお化粧がいいかと思って」という程度のコメントだった

 私はロシアにおける日本製品への依存の姿をいろいろな局面で見ていて、ことロシアに関する限り、日本製品のイメージに変化がないこと、いや、イメージはますます強化されているのではないか、という直感を持っているが、本稿ではそういうご報告をさせていただく。

 ロシアの消費者行動を説明する言葉として、この国では(1)ブランドロイヤルティー(2)ナショナルロイヤルティーという2つのマーケティング用語がよく使われる。

 (1)は日本でもよく使われるので理解はやさしい。購入にあたり消費者がある特定のブランドを優先的に選ぶ傾向を指す。

 面白いのは(2)の方で、これはロシアでしか聞いたことのない表現である。意味としては、消費者が購買行動の中で示す、特定の国の製品に対する贔屓を指す。

 もう少し具体的に言うなら、例えば写真を趣味にしている人が、日本製以外は問題外として、自分の好きなキヤノンのカメラを購入したとする。

ロシア成立20年、確立した自分らしい商品への選択眼

 この場合、ニコンではなくキヤノンを購入する行動をブランドロイヤルティーと言い、日本以外は問題外、とする行動を日本という国に対するナショナルロイヤルティーが高い、という表現をする。

 ロシアという国が成立して20年が経った。多くの消費者はすでに多くの経験を積み、市場にあふれる商品の中から、自分にふさわしい、信頼できる商品を選択し購入することができるようになった。

 そういうロシア人の消費行動において、他国では見られないほど顕著な傾向を示すのが、前述の2つのロイヤルティーである。 

 福島の原発事故で日本の技術力に疑問符がついた。日本製品が他国製品に比較して技術的に優れるというのは本当なのか、という疑問が世界に広がることに、日本メーカーは大いに不安を持つ。