普段はストレスばかりのモスクワ出張であるが、初夏のささやかな楽しみは、東京の猛暑から逃れられることである。 モスクワは北緯55度、北海道よりもはるかに北に位置しており、さぞかし冷涼な夏に違いないと思われるかもしれないが、日中の気温が30度を超えることも珍しくない。特に歴史的猛暑となった昨年は38.2度まで上昇したほどである。

モスクワのエアコンは節電の日本と違いフル稼働

市内の温度計は34度

 しかし、湿度が低いので、日陰に入れば不思議と暑さは和らぐ。 少なくとも、東京のまとわりつくような暑さとは比較にならない快適さである。

 また、ロシアは言わずと知れたエネルギー大国、街中のカフェやレストラン、オフィスビルに入れば節電・省エネなどお構いなくエアコンはフル稼働である。

 さらに心地良いのは、昼間の時間が長いことである。 モスクワではさすがに白夜となることはないが、それでも23時すぎても薄明るい。

 7月初めの週末に、筆者は投資先のメディア会社に誘われてモスクワ郊外で開催された夕暮れ時の屋外コンサート「モスクワ郊外の夕べ (Подмосковные вечера)」に出かけた。

 「モスクワ郊外の夕べ」とはロシア人なら誰でも知っている愛唱歌であり、このコンサートもそれにちなんでいる。 しかし庶民的な愛唱歌とは相反して、ロシアの富裕層を対象とするマーケティングの企画であった。

売り出し中の住宅は6億円

初夏のモスクワ モスクワ川と救世主大教会

 高級携帯電話のVERTU (日本からは撤退予定)、メルセデス・ベンツ、そのほかアートギャラリーやインテリアショップ、コニャックやウイスキー会社がスポンサーとなってロシアの富裕層300人程度を招待するイベントである。

 会場はモスクワの西方、ミンスク通りを10キロほど行ったところにある高級住宅地「ドービル」。ロシア語ではピンとこないが、フランス語のDeauVille、5月のG8サミット開催地となったフランス・ノルマンディーの高級リゾートである。

 実際、住宅地内の建物はフランス風に統一され、売り出し中の建物の1つは土地2500平方メートル、建物770平方メートル、価格760万ドル(約6億円)とあった。 建物の内部はスケルトンのままなので、実際に住むためにはその2倍くらいのお金がかかりそうである。

 コンサートの会場前には「ベントレー」や「マイバッハ」「ロールスロイス」に「フェラーリ」などの超高級車が列をなしている。 筆者は市内からタクシー(小型韓国車であった)に乗って出かけたのだが、大いに気後れしたことは言うまでもない。