今年も広島、長崎で原爆犠牲者を悼む平和式典が行われた。

 64回目になる今年の式典に米国代表の姿はなかった。米国は原爆の投下を「戦争の早期終結のため」と正当化してきた手前、平和式典への出席に極めて消極的だった。

64回目の「原爆の日」、2020年までの核兵器廃絶を訴え

64回目の「原爆の日」、2020年までの核兵器廃絶を訴え〔AFPBB News

 オバマ大統領は2009年4月のプラハ演説で原爆投下の「道義的責任」に言及し、「核兵器の廃絶」を訴えた。米国内の保守派はオバマ大統領の演説を批判したが、今年の広島、長崎での平和式典では、この画期的なオバマ演説を支持する言及がなされたのはむしろ当然であった。

 広島市の秋葉忠利市長に至っては、核廃絶を支持する自分たちを「オバマジョリティー」と表現し、その主張が多数派であることを強調した。確かに、今年7月に開催されたラクイラ・サミットでも核兵器廃絶への支持声明が出されていたから、核兵器廃絶の主張は「多数派」を形成しているのかもしれない。

 しかし、現実の世界は核兵器の廃絶どころか、核軍縮でさえ容易ではない。

 ラクイラ・サミットの直前、ロシアを訪問したオバマ大統領は、ロシアのメドベージェフ大統領と会談。2009年12月5日に期限が切れる第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる、戦略核の新たな包括的削減条約の年内締結を目指し、米ロ双方の戦略核弾頭を1500~1675発に制限することで合意した。

 2002年5月に米ロが締結したモスクワ条約では、2012年までに双方の配備する核弾頭を1700~2200発まで削減することが取り決められていたから、核軍縮の若干の進展があったと評価できるかもしれない。だが、削減はごくわずかであり、核兵器廃絶までの道のりが果てしなく遠いことが分かる。

虎視眈々と核戦力の近代化を進める中国

 米ロが他の核保有国を圧倒する核戦力を持ち、そのバランスの中で核軍縮を進めている一方で、虎視眈々と核戦力の近代化を進めているのが中国だ。

 2009年6月、中曽根弘文外相はG8外相会議で「中国だけが戦略核兵器を増強している」と名指しで批判した。確かに中国は日本を射程に収める核ミサイルを多数配備しており、日本にとっては北朝鮮以上の脅威であるのは紛れもない事実である。

 核軍縮への国際圧力が高まる中で、なぜ中国は核戦力の近代化を進めているのか。

 中国の核兵器に対する考え方は複雑だ。毛沢東は米国の原爆を「張子の虎」だと軽視を装いつつも、米国の核の威嚇に対抗するためには中国も核武装が必要だと自覚していた。中ソ対立によって、中国は自力で核兵器開発を進めざるを得なかったが、1964年10月、最初の核実験に成功し、核保有国として名乗りを上げた。