東京の大動脈JR山手線。車両の各ドアの上部に2面の液晶画面がある。右側の画面には次の停車駅の案内や、列車の運行情報が表示される。左側には、企業のCM映像などが流れる。「トレインチャンネル」と名づけられたこのサービスは、最近注目を集めるデジタルサイネージ(電子看板)の成功モデルの1つだ。デジタルサイネージの最前線をご紹介しよう。(文中意見にわたる部分は筆者の個人的見解です)

奪い合う個人の「24時間」

JR山手線の社内にある「トレインチャンネル」。右の画面には鉄道情報、左の 画面には広告が流れる

 山手線の「トレインチャンネル」は2002年に導入され、現在、中央線、京浜東北線にも導入が進んでいる。計画どおり導入が完了すると、合計1万6000面の液晶画面を通じて毎週5000万人もの目に触れる巨大メディアとなる。

 現代人は忙しい。自宅でソファーに座って、ゆっくりコンテンツを視聴する時間は減少している。テレビ番組もリアルタイム視聴の比率が下がり、ハードディスクに録画して視聴する人が増えている。ちょっとした隙間にコンテンツをどうやって見てもらうか? コンテンツの出し手は、個人の「24時間」を奪い合っているのだ。

東京メトロ丸の内線の東京駅に設置されたデジタルサイネージ。2009年10 月から広告配信を開始する

 山手線の例は、通勤途中の「手持ち無沙汰のちょっとした時間」にコンテンツを配信するモデル。24時間の隙間をたくみに見つけた点が成功に結びついた。東京メトロが丸の内線で10月から始めるデジタルサイネージも、同じ発想のものだ。駅のホームの向こう側の壁にある看板をデジタルサイネージに変え、電車が来るまでの短い間にもコンテンツを見てもらおうという計画だ。

 少し変わった例として、羽田空港の女性用トイレがある。2008年12月から羽田空港の2つのターミナルビルにある女性用トイレ65カ所、合計355の「個室」に7インチのデジタルサイネージを設置。平均滞在時間が約2分であることを考慮し、15秒のCM7本と空港情報1本を1つのコンテンツとしてパッケージ化して流している。

 また、病院の待ち時間は平均約40分と言われる(メディアコンテンツファクトリー調べ)。待ち時間のつぶし方は、ロビーなどに設置されたテレビの視聴が7割強を占める。病院がデジタルサイネージを導入し、待ち時間の目安、患者の呼び出し、診療時間の変更のお知らせ、健康情報などを流せば、その効果も高い。

 デジタルサイネージは “out of home media” とも呼ばれる。出先での簡易な情報入手のための手段だ。ポスターなどの紙媒体との違いは、コンテンツを自在に表示できる点にある。

 動画が表示できる点も大きな特徴だ。最近では100インチを超える大型サイネージ、複数の画面を連動させたサイネージ、専用メガネなしに3D映像を表示できるサイネージなど、多様化も進んでいる。しかし、通行している人があえて立ち止まって「見る」というメディアではない。ちょっとした隙間の時間を使うという発想が必要だ。

 ロンドンの地下鉄にも面白い例がある。地下鉄のエスカレーターに沿って、壁に三十数枚の液晶パネルがはめ込まれている。エスカレーターに乗っている人に対して、連続するパネルに映し出される映像をコマ送りのアニメーションのように見せることもできる。ロンドン地下鉄は毎日3000万人以上の利用者がいる。この膨大な数の通行客に対して、将来的には3万1000カ所のポスター表示箇所をすべてデジタルサイネージに変えていく計画だ。

デジタルサイネージ振興で通信・放送関連法の改正も

 2008年のデジタルサイネージの市場規模は約650億円(富士キメラ総研調べ。見込み額)。しかし、6年後の2015年には約1兆円の市場規模になるとの予測(サイボウズ・メディアテクノロジー)もある。市場拡大のカギを握るのがコストだ。