昨年(2008年)6月にソニーが発売したスピーカーシステム「Sountina(サウンティーナ)」が発売から1年以上が経過した今も、静かな人気を保っている。商品サイクルが極端に短くなっている今、1年以上も売れ続ける製品は珍しいが、さらに驚きなのはその価格だ。消費税別で100万円もする。
ベータマックス、ウォークマンに続く製品?
こんなに高い製品がなぜ売れ続けているのか。そのわけはスピーカーの姿を見て音を聞いたら合点がいった。懐かしいソニーの姿がそこにあったからだ。
古くはトランジスタラジオに始まり、ビデオデッキの「ベータマックス」、携帯型音楽プレーヤー「ウォークマン」など、ソニー製品には新しい時代の生活提案があった。価格が高くてすぐには手が届かなくても絶対に手に入れたい気持ちにさせられる。しかし、最近のソニー製品には残念ながらそういう要素が少なくなった気がする。
その点、サウンティーナはニッチな分野かもしれないが、消費者の心をくすぐるソニーらしさがある。さらに開発者の意気込みを聞いて確信した。ソニースピリットが消費者の心をつかんだに違いないと。
本当に欲しい製品は少々高くても買う「男のやんちゃ買い」*1という消費性向が今、注目され始めているそうだ。しかし、考えてみれば、そうした「やんちゃ買い」のコンセプトは、ソニースピリットとほとんど重なり合う。「男のやんちゃ買い」推進委員会の1人である俳優の細川茂樹氏も推奨商品としてピックアップしている。
ソニースピリットと「男のやんちゃ買い」
例えば、男のやんちゃ買いを促すには、これまでの常識を破るようなコンセプトが重要だが、サウンティーナにはそれがある。従来の超高級スピーカーシステムとは全く異なるのだ。音を出す以外はこれが同じスピーカーなのかと思うほどの違いがある。
従来のスピーカーでは存在感を強く主張することが高級の証しだった。ステレオ用に最低でも左右に2つ大きなスピーカーボックスを置き、そこから臨場感あふれる音楽を流す。音の良さだけでなく、装置を重厚に見せることも高級さをアピールするうえで重要だった。ところが、サウンティーナは全く逆。超高級スピーカーの条件だった存在感を捨てたのである。
「どこにあるのか分からないようなスピーカーを作りたかったんです。彼女や奥さんにも邪魔者扱いされないもの。存在感が薄くてどこから聞こえているのか分からないけれど、すごく良い音がする。そんなスピーカーが開発できないかなって」
こう語るのは、サウンティーナを自ら提案し開発したソニーのコンスーマープロダクツ&デバイスグループ・ホームエンタテインメント事業本部第2事業部5部開発課アコースティックシステムエンジニアの鈴木伸和さん。
*1=知名度があるわけでも、誰もが欲しがるわけでもない。それでもオレはこれを買う。自分の気持ちや価値観に正直に、惚れ込んだモノは何があっても欲しい。そんな強いこだわりを持った男の買い物が今、「やんちゃ買い」と定義され1つのムーブメントを起こそうとしている。