日本青年会議所の第58代会頭となった安里繁信氏は異色の経歴の持ち主と言えるだろう。自ら「小学校から義務教育さえ受けていない。中学からは自分で稼いでいましたから」と言い切る。まだ米国統治下にあった沖縄に生まれ、学業はそこそこに子供の頃から既に企業家としての頭角を現していた。

安里繁信氏/前田せいめい撮影安里繁信・日本青年会議所会頭。1969年生まれ、沖縄県浦添市出身、41歳(写真:前田せいめい、以下同じ)

 高校を卒業して企業に就職するとすぐ、彼には一般社員としての仕事ではなく、経営者としての仕事が待っていた。企業再生である。経営危機にあった企業の経営を任されることになり、瞬く間に立て直してしまった。その後も次々と倒産の憂き目にある企業の再生を任されことごとく再生させてきた。

 「なぜダメになった企業の再生ができるかって? 簡単ですよ。この会社が潰れた時のシナリオをまず書くのです。どのような連鎖倒産の危機があるのか、悪い条件を洗いざらい全部出してしまう。そのうえでそうならないような計画を立てればいいのです」

 「事業に失敗する大半のケースは夢や理想ばっかり追いかけている。そしてそれが実現できそうになくなると、こんなはずではなかったと右往左往するだけです。初めから潰れた時のリスクが分かっていれば、事業が少しおかしくなっても右往左往することなく、潰れないための手を打てる」

 安里氏はまだ39歳だが、こうした言葉が端的に示しているように、企業家としての経験は生半可ではない。60歳を超えた大企業のサラリーマン社長が束になってかかっても跳ね返せるだけのパワーにあふれているのだ。

 「私は会社を潰して自殺未遂を起こした人の現場に何度も立ち会っています。死にたいという経営者の相談にはそれこそ数え切れないほど乗ってきました。自分で言うのも何ですが、経験が半端ではありませんよ」

 日本の若きリーダーとして実に頼もしい限りである。その安里氏とこの経済環境下で日本の進むべき方向、とりわけ地方の活力をどのように引き出すべきかについて議論した。

100年に1回の危機は大企業だけの話

 現在世界を覆っている経済危機は、震源地である米国では、金融機関だけでなく世界最大だった自動車メーカー、ゼネラル・モーターズ(GM)が事実上の国家保有になるなど、大変な影響が出ています。しかし、どうなんでしょう。欧米に比べて本来は影響が少ないはずの日本の方がむしろ元気がなくなっている気がします。

安里 これは大変な経済危機に間違いはありません。しかし、100年に1回の経済危機だと騒いでいるのは大企業さんだけで、中小企業の中には世の中の流れに沿ってやれるだけやろう。できなければそれでいいじゃないかという楽観的な見方も出てきています。中小企業にとっては、手に負えないことは手に負えないのですから。

 ただし、その際に重要なことがあります。潰れることを前提に考えて取引をすることです。例えば、現在、トヨタ自動車と取引していて、まさかトヨタさんが潰れるとは誰も思いません。しかし、昔、ダイエーが強かった時代は誰も潰れるとは思いませんでした。しかし、そのまさかを私たちは経験しました。

 米国のクライスラーやGMだってそうでしょう。つい最近までこの2社が潰れるとは誰も思っていませんでした。しかし、実際には経営がおかしくなって、連鎖倒産が次々と起こっています。「まさか」を過信したから、あるいは、そう思いたかったから連鎖倒産してしまうのです。

 現在のトヨタが潰れるとは私はもちろん思いません。でも、企業の経営ではその「まさか」まで考えて行動しなければなりません。そう考えると、1社だけに受注を頼り切ってしまうような経営は考えられないわけです。いくら取引先が伸びているからと言って、未来永劫続くと考えるのは妄信でしかありません。

 土木建設でも理屈は同じです。公共工事が伸びているから私たちの企業も伸びていると考えては経営者としては失格。この時にリスクが広がっているのだという認識こそ必要なのです。国に頼り切って事業を拡大させ、それが突然なくなった時のことを考えたら空恐ろしい。でも経営者は、そのリスクを常に考えて行動しなければなりません。そうすれば、「まさか」が起きた時に、打つ手も自ずと見えてきますし、その前に手を打てているはずです。