以前、米政府高官が人民解放軍幹部にこんな質問をしたそうだ。「なぜ中国は米国のネットワークに何度も攻撃と侵入を繰り返すのか」

 解放軍幹部はこう答えたらしい。「毎日どのくらい中国が米国からサイバー攻撃を受けているか、君は知らないのか?」

 以上は米有力シンクタンクCNASが最近発表した「アメリカのサイバーの将来」と題する報告書にあった一節だ。サイバー能力に関する米中の力関係の実態を、これほど見事に象徴する会話はないだろう。今回はこの米中格差について考えてみたい。

中国に対する強い懸念

キャンベル次官補が来週訪日、普天間移設問題を協議

カート・キャンベル米国務次官補〔AFPBB News

 CNASとは Center for a New American Security、2007年に設立された新しいシンクタンクだ。

 共同創設者は国防総省のミシェル・フロノイ次官と国務省のカート・キャンベル国務次官補であり、現在バラク・オバマ政権に最も多くの高官を送り込んでいるシンクタンクの1つと言われる。

 冒頭のサイバー戦に関するCNAS報告書が発表されたのは5月31日。発表時期と内容から見て、これも前回ご説明した5月27日のG8ドービル・サミット首脳宣言から6月4日のロバート・ゲーツ国防長官の発言に至る一連の対中サイバー戦キャンペーンの一部かもしれない。

 それはともかく、全体で300ページ近くあるCNAS報告書の第2部では、中国について次のように記述している。少し長くなるが要点のみ簡単に書き出してみよう。

●現在中国はいつでもどこでもサイバー攻撃を行える技術的能力を開発中であり、もはやサイバー戦について中国を無視することはできない。

●中国の国家計画の一環として、人民解放軍は正式にサイバー戦ドクトリンを採用し、既にサイバー戦の訓練とシミュレーションをも実施している。

●サイバー戦能力について中国はロシアと密接な協力関係にあるが、最近は独自のサイバー戦運用モデルを開発しようとしている。

●中国は2050年までに、伝統的軍事作戦開始前の敵国の金融市場、軍事・民生用通信、死活的インフラの破壊能力をも含む「世界的電子優位」の確立を目指している。

 といった具合だ。