5月23日、ルーブルの対ドルレートが1日で35.2%暴落した。だが、驚かないでほしい。これはロシアのルーブルではなく、ベラルーシ共和国のルーブルのことである(ベラルーシ共和国は1991年にロシアから独立した。ロシアとポーランドの間に位置する)。
ベラルーシのルーブルは、1ドルあたり3115ルーブルから4900ルーブルまで下がった。ドルの闇市場では6000ルーブルまで下がっている。
ベラルーシでは今年の春から外貨不足が激しくなっている。今年のインフレ率は39%になると政府筋も認めている。ベラルーシ政府は消費需要を牽制するため、緊急対策として、公務員の給料と生活必需品などの価格を凍結してしまった。消費者は店に殺到し、買いだめが始まった。
その背景にあるのはベラルーシの深刻な貿易赤字である。今年度、第1四半期は輸出が41.9%伸びたが、輸入は61.9%の伸びだった。入超によって外貨不足が厳しくなっている。今年の1月から外貨準備高は50億ドルから38億ドルまで減った。
ロシアとの関係は悪化し、さながら経済戦争に
ベラルーシ経済の低迷には、いくつかの原因がある。まず、ルカシェンコ政権の無策ぶりが挙げられる。ルカシェンコ大統領は1994年に就任した。2004年には憲法の3選禁止条項を撤廃し、去年12月に内政が混乱する中で4選を果たした。
同時に、ロシア経済への過度な依存体質が大きな問題である。
ベラルーシはロシア製原油を輸入し、国内に残っているソ連時代の石油精製工場で精製する。そして、外国の市場に石油製品を輸出することで外貨を獲得していた。
2006年までは、ロシアの原油をロシアの国内市場価格で安価に仕入れ、外国の市場で高値で売ることができた。そのおかげで収入は数十億ドルに達していた。ロシアが安価でベラルーシに原油を売っていたのは、政治的な配慮があった。
しかし、2007年から両国の政治的な関係は悪化し始めた。特にメドベージェフがロシアの大統領に就任すると、両首脳の意思疎通がうまくいかなくなった。
2007年のロシアの原油価格は1バレルあたり32.4ドル。2010年には1バレル58.6ドルまで上がってきた。ロシアの半国有の天然ガス会社、ガスプロムは、ベラルーシへの天然ガス売価を2倍に引き上げた。
ベラルーシは反発し、自国経由でロシアがヨーロッパに供給する石油・天然ガスの通過料を引き上げた。一方、ロシアはベラルーシへの原油の輸出量を2009年の2150万トンから1470万トン(2010年)まで削減するなど、さながら「経済戦争」に発展してきた。
2010年1月に予定されていたロシア、カザフスタン、ベラルーシの関税同盟条約の締結は、ロシアとベラルーシの対立によって遅れた。2010年5月28日に、プーチン首相が「関税同盟条約はベラルーシを参加させずに締結する」と強硬な態度に出ると、ルカシェンコ大統領が歩み寄り、2010年6月に条約が締結された。