米国とロシアの関係はなおも緊張感を引きずっているが、両国間には求心力も生まれつつある。その1つは「核不拡散」という共通の目標である。

 冷戦後、世界平和と安定を脅かす様々な問題が発生し、今も解決されていない。最も解決が急がれるのは、核保有に関する問題だ。

 核兵器拡散防止条約(NPT)が1970年に発効してから、およそ40年経った。だが、条約はあまり成功していないと言わざるを得ない。もちろん、その条約がなければ、もっとひどいことになっていたかもしれない。しかし、実際は核の拡散を防止することに失敗している。

 条約で核保有を認められているのは、米国、ロシア、英国、フランス、中華人民共和国の5カ国だけだ。しかし、インド、パキスタン、北朝鮮は、核兵器の保有を堂々と宣言している(特に北朝鮮は5月25日に2度目の核実験を行った)。イスラエルは保有を肯定も否定もしないが、疑惑の批判に何も答えようとしないということは、やはり持っているのだろう。

 今年退職する国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、核保有国の数は近いうちに倍増するかもしれないと悲観的な見方を示している。

 イランが核兵器を手にすれば、世界一の紛争地帯である中近東は、ますます危険な状態となる。また、パキスタンの核兵器の倉庫にタリバンとアルカイダの手が届けば、まさに悪夢である。

 米国は、核がタリバンの手にわたらないように、数十億ドルの一般の援助のほかに1億ドルの秘密基金を送り、その安全を図ろうとしている。だが、ニューヨーク・タイムズが5月18日に書いていたように、その支援金は、パキスタンが核兵器備蓄をさらに80~100基増やすために回されている疑いが強い。

軍縮に消極的だった核保有国

 NPTがあまり効果を発揮していない根本的な原因は、90年代に米ソ超大国の対立が終わってから、地域内の対立が激化したことが挙げられる。各国は、核兵器を持たなければ十分に国の安全を保障できないと危惧したのである。

 核を保有する5カ国も十分に責任を果たしていない。NPTには(1)核不拡散、(2)核軍縮、(3)原子力の平和利用という3つの柱があるが、各国が力を注いだのは、もっぱら第1の核不拡散である(他国に核を譲渡しないということ)。第2の核軍縮については、ほとんど無視している状況だ。特に数千単位の核弾頭を持つ米国とロシアは、核兵器の削減には消極的だった。

 91年に最初の第1次戦略兵器削減条約(START)が調印されてから7年の間に、米国とロシアは、戦略核弾頭をそれぞれ1万2000発と1万発から6000発以下まで減らしていた。そののちに、また数を減らしたが、まだ相当残っている。ロシアの筋によれば、現在、ロシアが持っている弾頭数は3000発、米国には3500発があるようだ。

 イラク戦争を繰り広げていたブッシュ政権は、核拡散の問題には、明らかに十分な注意を払っていなかった。また、ロシアはロシアで米国との関係が緊迫するに伴って、抑止力の要(かなめ)として核兵器を維持していた。