前回は人民解放軍の一部が中国の対米関係に影響を与えようとする可能性を検証した。もしこの仮説が正しければ、武装する「中国株式会社」はかつての「日本株式会社」よりはるかに手強い。

中国の09年国防費、6兆9000億円 14.9%増

中国の国防費は2009年に6兆9000億円と前年比14.9%増。〔AFPBB News

 企業に例えれば、「ガードマン」たちが会社の中枢で経営に口出すようなものだ。日本の自衛隊には到底許されない特権である。

 彼ら人民解放軍は単なる雇われ警備員ではない。創業時から立ち上げに参画し、会社を守ってきたという強い自負を持つ幹部社員たちである。

 最近米国防総省は、この「中国株式会社」の軍事力に対する懸念を深めつつある。今回は米国が中国の軍事力をいかに見ているか検証したい。

国防省報告に見る人民解放軍

 過去20年間、年率2ケタのペースで増強が続く中国の軍事力を懸念した米議会は、2000年から国防総省に対し、中国の軍事力に関する対議会年次報告書の提出を義務づけている。この報告書の記述は米国の行政府が「武装する中国株式会社」をいかに見ているかを占ううえで実に興味深いのだ。

 報告書の書振りは時期によって異なるので、時系列順に詳しく説明しよう。

米国は対中国ミサイル防衛システムの構築を、国務省委員会
米国、台湾にミサイル防衛システムを売却
米国防総省、新ミサイル防衛構想でロケット撃墜実験に成功

香港に停泊する米空母「キティーホーク」(上)。台湾に売却された迎撃ミサイル「パトリオット」(中)と台湾軍の「F16」戦闘機(下)〔AFPBB News

(1)「脅威」なる語を避けた時期

 第1回となる2000年版では「いつかの分野での中国の軍事能力の進展は台湾の防衛に対する挑戦となっている “Several developments in Chinese military operations or capabilities in 1999 present challenges to Taiwan’s defense.”」とされていた。

 この傾向はその後も続き、2002年版、2003年版でも「威圧的な軍事的オプションを開発しようとする中国の努力は台湾だけでなく、フィリピンや日本のような地域の国々対する挑戦となっている “China’s efforts to develop coercive military options present challenges not only to Taiwan, but also to other countries in the region such as the Philippines and Japan”」と記されていた。

 意図的か否かは不明なるも、当時の中国軍事力は「脅威(threat)」と認識されていなかったようだ。

(2)「脅威」なる語を使用した時期

 2005年版では米国は「平和で繁栄する中国の台頭を歓迎する」としつつも、軍事力の増強に関する表現振りは大きく変わった。慎重な言い回しながらも、「長期的に、もし現在の傾向が続けば、中国人民解放軍の能力は地域に展開する他の近代的軍事力に対する確かな脅威となり得る “Over the long term, if current trends persist, PLA capabilities could pose a credible threat to other modern militaries operating in the region.”」となったのだ。