パソコン(PC)にソフトウエアをインストールしたり、ハードディスクを増設するなんて、もう古い? 今、情報通信の世界では「必要な時に、必要な物を、必要な分だけ」ネット上の巨大な「頭脳」の中から取り出して使う「クラウド(雲)コンピューティング」技術に熱い視線が集まっている。
この最先端技術を活用して省庁の壁を取り払い、本当に便利な電子政府を作ろう。こうしたプロジェクトが動きだした。名づけて「霞が関クラウド戦略」。2日間に分けて、「クラウドコンピューティングとは何か」「霞が関クラウド実現のメリット」を中心にプロジェクトの狙いを紹介しよう。(本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解です)
「データサービスとアーキテクチャーはサーバー群のどこかの『雲』の中にある」
「クラウドコンピューティング」という言葉を最初に使ったのは、米ネット検索最大手・グーグルのエリック・シュミット最高経営責任者(CEO)。2006年8月、米カリフォルニア州で開かれたサーチエンジン戦略会議でのことだった。
仮想メインフレームに「頭脳」を集約
まだ、クラウドコンピューティングのイメージが湧かない人のために、コンピューターの歴史をひもといてみよう。
30年ほど前のコンピューターは「メインフレーム」と呼ばれ、大きな図体で空調の利いた専用ルームに鎮座していた。利用者は端末からメインフレームにプログラムを送って計算をしてもらい、その結果を端末に表示してもらうという形態だった。ネットワークの真ん中に巨大な頭脳がある「城下町」のイメージだ。
しかし、CPU(中央演算装置)の機能やデータ保存技術の飛躍的な進歩が起こり、オフコン(オフィスコンピューター)やPCの機能がどんどん進化。ネットワークのエッジ(端)と呼ばれる周辺部分に頭脳が分散し、個人のデスク上のPCで、大抵の作業が完結できるようになった。現在はこの分散の時代にある。
そこに、ブロードバンド網が整備され、膨大なデータを瞬時に移動することも可能になってきた。そこで、何千台、何万台ものコンピューターをネットで結び、巨大な「仮想メインフレーム」を作り、その頭脳をみんなで分け合って使おうという先祖返りの発想がクラウドコンピューティングなのである。
利用者は、安価なPCを用意してインターネットに接続するだけ。必要なソフトは、ネットを経由して必要な時に使用し、作成したデータもネット内部に保存。難しい作業で一時的にパソコンの処理能力が足りなくなった場合には、時間単位でデータの処理能力を追加購入することができるので、メモリを増設する必要もない。つまり、パソコンのハードディスクやソフトを財として「所有」するのではなく、「サービス」として必要な時に購入したり、借りたりすればいいのだ。
現在、クラウドサービスを提供しているのは、グーグルの他、ソフトウエア最大手のマイクロソフト、ネット通販のアマゾン・ドット・コム、顧客管理システム販売のセールスフォースなど米国企業がほとんど。もともと、これらの会社は、データセンターに巨大なサーバー群を保有しており、それを効率活用しようという発想でクラウドサービスに乗り出した。
たとえば、アマゾンの場合、注文が集中するクリスマスシーズンに合わせて設備投資をしている。しかし、クリスマス以外の時期は、処理能力が余って、コンピューターが遊んでいる状態になってしまう。そこで、余った能力を貸し出すことを思いついたのだ。