Session 03では初代デジタル大臣を務めた、衆議院議員・自民党デジタル社会推進本部長の平井卓也氏が登壇。次世代のデジタルアーキテクチャにおける日本の強みについて語った

 デジタルガレージとDG Labの23回目となるグローバル・カンファレンス「THE NEW CONTEXT CONFERENCE TOKYO 2022 Fall」が都内で開催された。テーマは「Designing Our New Digital Architecture」。次世代テクノロジーを俯瞰しながら、法律、アート、経済、技術、それぞれの分野のパイオニアと議論し、デジタル時代の新しい社会の在り方を考えるカンファレンスの全貌をレポートする。

web3時代のアーキテクチャを形作るものとは

 オープニングで登壇したデジタルガレージ(以下、DG)代表取締役 兼 社長執行役員グループCEO カカクコム 取締役会長の林 郁氏は「web3自体には光の部分と影の部分があります。どう使えば次のいい時代ができていくか、グローバルシチズンとして私も皆さんと一緒に考えていきたい」と語った。

 続いて登壇したDG 取締役 兼 専務執行役員Chief Architectの伊藤穰一氏は、「Designing The New Digital Sensibility」と題した基調講演を行った。

 伊藤氏は「Sensibility」を「美学」と表現し、「ルールを変えるには美学を変えることが必要」と語り、またデザイン、倫理観、言語などを含む美学が、アーキテクチャと影響し合うことに言及。こうした作用によってweb3のデザインもこれから変わっていくと語った。

 さらに伊藤氏は、新たにDG内に設置したデジタルアーキテクチャを構築する研究組織「Digital Architecture Lab」の設立を、世界的なデザイン事務所PentagramのGiorgia Lupi氏が制作した「Soft Pixel」で構成されたロゴとともに紹介。完全な四角形ではなく少し歪んだ側面は、人間の不完全さも残した柔軟なインターフェースになっている。これら25色の「Soft Pixel」は、用途に合わせて、デザインの原則に基づきながら、自由につなぎ合わせて使えるようモジュール化されている。

ロゴとともに「Digital Architecture Lab」の設立を紹介する伊藤穰一氏

 伊藤氏は、日本におけるweb3の現状については「日本人の多くは暗号通貨バブルとその崩壊を経験していない。そのためにいい意味でweb3に悪い先入観を抱かずに入っていけている」として、遅れが逆にチャンスになり得ると語った。

 そして、中長期的なweb3のインパクトはやはりDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)にあるという。「DAOは自律分散に限らず、世の中のルールや価値を技術的に設計して動かすことを可能にします。ガバナンスとインターフェースをきちんとつくれば、アクセシビリティ高く、透明性を持って、低コストで、誰もがビジネスやアート、コミュニティなどさまざまな活動に使えるものになるはずです」と説明した。

「本日は、法律、アート、経済、技術、そして政策など、さまざまな分野のパイオニアが、新しい社会の在り方についてディスカッションします。デジタルアーキテクチャが、自分のやろうとしていることにどう影響するのか。皆さんが自分の文脈で聴いて、考えてほしいと思います」(伊藤氏)

新たな所有形態が、民主主義の在り方、創造の在り方を変える

 続くSession 01では、「Technology and Organization Architecture」と題したパネルディスカッションが行われた。初めにサイバー法の権威でクリエイティブ・コモンズの創設者である、ハーバード・ロー・スクール教授のLawrence Lessig氏が講演を行った。

 Lessig氏は“code is law”というキーワードを掲げ、人間がつくった機構であるweb3の世界をより良いものにしていく責任が人間にあると述べた。また、その責任を果たすことで、web3を自由な活動の副産物として公共財をパワフルに生み出すことができる基盤にしていくことができると語った。

 パネルディスカッションには、AI搭載のクラウドサービスCrowdSmartの会長のKim Polese氏、Aurelia Institute 創業CEO / MIT Space Exploration Initiative ディレクターのAriel Ekblaw氏、日本発のプロトコル「Dev プロトコル」を開発するフレームダブルオー CEOの原 麻由美氏、スマートコントラクトのセキュリティ監査を行うMacroのコア・コントリビューターであるTim Mansfield氏が登壇。web3を分散自律型たらしめるビジネスモデルとコスト、ガバナンスのプロセス、さらには幅広い人にエンパワーメントすることで実現する新たな民主主義の在り方などについて、それぞれの立場から活発な議論がなされた。

 Session 02のパネルディスカッション「Creative Architecture」には、デジタルアーティストのPplpleasr氏が登壇。自身のNFTへの参加、DAO運営の経緯を語り、分散型のビデオプラットフォーム「Shibuya.xyz(Shibuya)」を紹介。「コミュニティによる所有こそが未来をつくります」と、新たな資金調達法であり、自由な創造の手段であるweb3とアートの関係について語った。

 パネルディスカッションには、渋谷区長の長谷部 健氏、アーティストであり東京藝術大学デザイン科准教授のスプツニ子!氏が登壇。Pplpleasr氏とスプツニ子!氏は、グローバルにおける渋谷の存在感や、web3における自身の創作とDAO運営のバランスなどについて語り、長谷部氏は「行政自身は文化をつくるのではなく、環境をつくって支える立場にあります。しかし、このチャンスに、何もしないわけにもいかない」と、渋谷経済特区やDAOによる街づくりの可能性を示唆。渋谷の落書きのNFT化やスクランブル交差点の地下空間の活用案など、このセッションを通じてさまざまなアイデアが飛び出した。