横河デジタル 代表取締役社長 鹿子木宏明 理学博士

 計測機器からスタートし社歴100年以上、現在はワールドワイドの製造業中心に計測、制御、情報の技術を提供する横河電機は、市場で高まりを見せるDXへの対応強化に向けて、DXのコンサルティング、実装、保守から運用まで一貫して対応できる横河デジタル株式会社を2022年7月1日設立した。同社は、工場やサプライチェーンといった製造ラインに向けて最新のDXソリューションを提供することを主目的とし、まず国内の化学プラントや精油工場といったプロセス製造業に向けてDXを届けたいとしている。今回は、設立2週間後というタイミングで、代表取締役社長の鹿子木宏明理学博士に、横河デジタルの特徴や目指すものを聞いた。

課題が多い製造業を、DXの力で部分最適から全体最適に変身させる

 横河デジタルは、母体である横河電機が自社や他社の工場やプラントで築き上げたデジタルやAIのノウハウ、ITやOTの豊富な知見をもとに、DXを望む企業(主として製造業)にコンサルティングを実施する、生まれたばかり(取材時、設立後半月)の会社だ。取材時は、社員は鹿子木社長と役員が数人、会社ロゴもまだデータのみという状況だったが、来年度には一気に400人体制を想定しており「本気で、本当にDXをお客さまに提供しようという意志を持っています」と鹿子木氏は語る。

 現在、横河電機が顧客とする製造業、特にプロセス産業はいろいろな課題を抱えている。ベテランの高齢化と退職、設備の老朽化、事業を取り巻く環境の変化、サステナビリティへの配慮、サプライチェーンの的確な運用などなど、製造業を囲む状況は複雑化している。「特に、原料から材料、部品を組み立てるというサプライチェーンでは、半導体の供給不足とか、船便がたまってしまうなどロジスティクスが混乱して生産性がグンと落ちてしまった。今までは工場の中だけで、一生懸命、品質を上げて最適化するのが一番良かったのですが、今は工場1カ所だけでは解決できない状況が起きているのです」と鹿子木氏は、課題の複雑さを説明する。

 こうした課題の解決には、一つ一つを解いてもなかなか効果が上がらないとし、鹿子木氏は「全体最適」の重要性を訴える。それは戦略立案から始まり、事業のロードマップ作成、システムの実装(ここでデジタル技術を効率的に活用するのはもちろん)、そして運用・保守まで、一貫したDXを意識したコンサルティングの必要性を解き、氏は「横河デジタルなら、それができる」と述べる。

OT、AI、過去の抱負な経験値

「私たちの強みは、なんといっても豊富な製造業での業務経験からOT技術を持っていること。そしてグループの横河ソリューションサービスの長年のお客さまとの関係から、現場から経営に至るまで、相当の実績や知見を有していることです」と鹿子木氏は説く。OTとは、Operational Technologyの略で、工場やプラントなどの制御機器を運用するシステムやその技術を指す。OTは、活用される場として工場などが多いだけに、YOKOGAWAグループ※1が今までの業務の関係からOTに強いのは理にかなっている。
※1横河電機を中心とする関連会社のグループ

 鹿子木氏は、横河電機入社前は某著名ソフトウエア企業で10年近くAIの研究に従事した経験を持ち、横河電機に入社してからは工場やプラントへのAI応用に努めた。直近では、大手エネルギー企業において、従来は人間じゃないと無理と言われた蒸留塔の制御をAIが自動で行うシステムを構築し、実際、35日間、問題なく稼働させた。これが業界で「AIが工場制御に役立つ」と大きな話題になり、横河電機には「ウチの設備でもAIが使えないか」という問い合わせが殺到したという。

 他社でも生かせるOTの経験、工場で本格的に利用できるAI技術の確立、そして市場からの期待の声、こうした背景の中で横河デジタルは初声を上げ、グループからも市場からも注目は高いと思われる。鹿子木氏も「本気でDXを提供する」と語るが、過去の成功例と意気込みだけでは、成功は約束されない。同社は今後、どう勝ち筋を作っていくのだろうか。鹿子木氏は、勝算はデータにあると言う。

東京都武蔵野市にある横河電機の本社外観