東日本電信電話株式会社 経営企画部 営業戦略推進室 担当部長 高橋常雄氏

 日本企業におけるDXの課題第1位は「人材不足」で53.1%、2位は「費用対効果が不明」で32.8%という数値が上がっている。これは総務省「令和3年版情報通信白書」が公表したもの。確かにDXでは人材不足は常に語られる話題だ。こうした状況から、DXのためのツールやソリューションの提供と平行して「DX人材の育成や提供」といったサービスも多い。

 国内有数の通信事業者である東日本電信電話株式会社(以降、NTT東日本)は、2022年1月31日にDX関連のサービス提供を専門に行う「株式会社NTT DXパートナー」という関連会社を設立した。このDXパートナーはDX人材育成サービスにも対応。しかし、聞けばその育成モデルは、NTT東日本がフレッツ光の全国展開と同時に行った社内業務の大改革から生まれたものだと言う。一体、どんな改革がどんな人材育成のモデルを作ったのだろうか。

盛り上がる国内の光インターネット接続に対し、追われるように効率化を実践

 フレッツ光とはNTTグループが提供する、光ファイバーを中心とした電話・インターネット回線で、2001年開始以来、今までに約1200万の契約を達成。また、2014年からはフレッツ光を他の事業者にOEM提供して新たなサービスを提供する「光コラボレーション」を実施し、電話とネット以外の利活用も支えている。

 しかし、こうしたフレッツ光の旺盛な需要は、当時からNTT東日本に課題を突き付けていた。光ファイバー敷設のための事務作業、現場での工事、各種手続きといった膨大な業務処理への対応だ。2000年というと、Windows 95の世界的ヒットからインターネットがはやり出した頃。もちろん、スマートフォンはこの後、7年たたないと出てこない、ペーパーレスやリモートワークなど夢のまた夢という時代だ。代理店から来るフレッツ光の申し込みも紙の書面が中心で、NTT東日本の受付センターでは書面の確認、住所間違えの問い合わせ、書面内容の転記など、今から想像するとクラクラするような膨大な業務が発生した。

 望むような増員がままならない中、なんとかユーザーの回線を求める声には応えたいという思いから、NTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室 担当部長の高橋常雄氏は「この状況を改善するには、人が増えないなら発想を転換して技術で乗り切るしかないと考え、自社内にあった受付システムを代理店さんの方にも展開し、代理店さんから数値やテキストを入力してもらう書面のデジタイゼーションに取り組みました」と語る。これによってNTT東日本は受付センターの工数削減に成功。振り返るとこれが「第1回のDX」(高橋氏)だった。

NTT東日本発表によるフレッツ光の契約数の推移
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その後も次々とデジタルによる改善に迫られる

 受付のデジタル化で入り口部分の渋滞は減ってきたが、フレッツ光を実際に敷設するための回線工事、そのスケジュール、人員配置などの社内情報共有はまだ人手頼りだった。この時は、回線開通に関する事務処理や機器設定の省力化を目指し、「自動開通システム」を自社開発。機器の注文を受けたら開通まで自動で行えるようにシステムを構築した。「これによって社内人材の業務に余裕が生まれ、品質管理や設備計画といった本来集中すべき業務に、向き合えるようになりました」(高橋氏)。ツール活用による工数削減、ひいては重要業務への集中とはまさにDXの成果と言える。2回目のDXを終え、次の3回目のフェーズでは受付対応のAI化が予定されており、1年で受付業務の工数の7割削減を目指している。

 こうした過去の取り組みについて、総務人事部 人材開発部門長の米井友浩氏は「当時、思うように人材を増やせなかった中で、発想の転換や技術で乗り切った部分は、本当に産みの苦しみという感じでした」と課題解決に迫られた苦悩の中での業務改善であったことを振り返る。

 このような業務改善による社内改革に手応えを感じたNTT東日本は、2019年7月にデジタル革新本部を設立、これまで培ったノウハウを同社のビジネス拡大に生かす方向を目指す。併せて社内人材のDXスキルアップを開始し、2022年1月にはDXソリューションを外部に展開するNTT DXパートナーを設立する。