■〔シリーズ〕DX企画・推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」はこちら

 この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべきビジネス発想力の養成を目的としている。DXやデジタルビジネスの成功事例には「ビジネスの仕掛け」がうまく使われているが、本連載では、役に立つ9の「ビジネスの仕掛け」をテーマにビジネスアイデアを発想できる考え方、事例などを解説していく。

 今回のテーマは〈7〉プロシューマー(Pro-sumer)である。これは生産者(Producer)と消費者(Consumer)からなる造語で、生産活動を行う消費者のこと。未来学者 アルビン・トフラーが1980年に発表した著書『第三の波』で示した古い概念ではあるものの、今日でも注目されている。

 あなたはホームセンターのオリジナル商品が好きだとする。毎週、近くの店に通い、いろいろ物色して面白い商品を買って使う。とても満足したので友達にも教えたい。SNSで感想をつぶやくと多くの友達から「いいね」がつく。これに気を良くし、またホームセンターに通う。

 しかし、だんだん、それだけでは満足しなくなる。最初は商品に満足していたが、次第に不満なところが目に付くようになる。「これがあったらもっと良い」「もっと軽い方が」「この機能があれば完璧だけど・・・」、これも誰かに聞いてほしくてSNSに書く。

 さらに、あなたには不満が募る。もっと良い商品が欲しい。でも、他の店にも売ってない。ネットで見ても売ってない。自分だったらもっと良い商品が企画できるのに。気になってしょうがない。自分が考える理想の商品を見てほしくてSNSに書く。文字だけでなく、絵でも描く、そして動画で説明する。

 ある日、あなたのところにメッセージが来た。いつも行くホームセンターの本社からだ。「当社商品の企画に参加いただけないでしょうか」と書いてある。あなたは思いもよらぬオファーに驚き、ときめき、早速、返信する・・・。これがプロシューマー誕生の瞬間だ。

 プロシューマーは、一般にメーカーが、卸や小売業者など商品の売り手が、買い手である消費者のニーズ、声、インサイト(顧客深層心理)を取り入れた商品を開発したり、販売企画など売り方の改善をしたりすることを実現する「ビジネスの仕掛け」である。これを事例で説明しよう。

「ミネラルウオーターの新商品」が売れずに困った飲料メーカーは・・・

 飽和したミネラルウオーター市場で他社からシェアを奪いたいと考えた大手飲料メーカーの商品企画部長がいた。その部長は、新商品として新しい採取地の天然水を製品化し、『貴重な採取地の天然水』とキャンペーンを打ったのだが、成果は上がらなかった。

 新しい商品が売れないので、部長は困って対策を考えてもらうことにした。指名した人は2人。1人は水の成分や味に詳しい系列研究所のベテランの研究員Aさん、もう1人はいつも昼食を食べている食堂の若いアルバイトBさんだった。

 Aさんは聞かれるやいなや、『良い水の味は飲めば分かるので、ペットボトルのラベルに水の味を訴求するキャッチコピーを載せればよい。水の味の違いが消費者にしっかり伝わるように訴求をすることが必要である』と言った。

 一方、Bさんは少し考えて、『水は一定レベルの味であれば特に違いなんて分からない。それよりも、飲んだ後のボトルの扱いに困る。特に野外、登山などで歩きながら飲んだらペットボトルは始末に困る。小さく折りたんでポケットに入れておけるボトルにしたら自分は買う』と言った。

 以降、この飲料メーカーでは『小さく折りたためるペットボトル入り清涼飲料水シリーズ』が全国のコンビニで売れ、野外でお弁当を食べたり、トレッキングや登山などごみ箱がない場所で飲まれたりする水としてのブランド価値を確立したという。

 今や、メーカーや卸、小売業者が「売り手の論理」で商品を開発しても消費者に受け入れられる時代ではなくなっている。売り手は「売り手の都合」で考えることが多いが、消費者は「自分が感じる体験価値、ベネフィット」で商品を選ぶのだ。

 では、どのように、「プロシューマーの巻き込み」の成功ケースを作ればよいのだろうか。そのために筆者は「プロシューマー巻き込みのチェックリスト」を使っている。これを使うことで、成功する可能性が高いプロシューマーとの共同商品開発を考えることができる。