
■〔シリーズ〕DX企画・推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」はこちら!
この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべきビジネス発想力の養成を目的としている。DXやデジタルビジネスの成功事例には「ビジネスの仕掛け」がうまく使われているが、本連載では、役に立つ9の「ビジネスの仕掛け」をテーマにビジネスアイデアを発想できる考え方、事例などを解説していく。
今回のテーマは〈1〉シェアリングである。ビジネスの文脈で語られる「シェアリング」に対して、皆さんはどのようなものをイメージするだろうか。ある人は移動シェアリングのUberやフードデリバリーのUberEats、宿泊シェアリングのAirbnbなど世界の成功モデルを思い浮かべるに違いない。
また、ある人は地方自治体の地域ビジネス振興策としての古民家シェアリングや観光地駐車場シェアリングを思い浮かべ、別の人は雇用の新しい在り方としてスキルシェアリング、例えば、副業推進、専門人材の単位時間利用といった方法を考えるだろう。
筆者は社内外のDX企画、推進人材にビジネス発想力を身に付けてもらう活動をしているが、シェアリングの教え方には気を使っている。「良いもの」として伝えるのか、「厄介なもの」として伝えるのか。それは、仕事をする人の立場によってシェアリングの捉え方が異なるからだ。
ある人にとってシェアリングは「有効な問題解決策」になるが、別の人には自社のビジネスを破壊する「厄介なもの」と捉えられる。これが、シェアリングの面白いところである。では、「良いもの」としてのシェアリングについて考えてみよう。
大手喫茶店チェーン出店に「駅前の暇な喫茶店」は・・・
ある地方の有名温泉地の駅前に古い喫茶店があった。その店は、年老いた夫婦が経営していたが、食べ物もドリンクもメニューが少ない上、あまり洗練されていなかった。ある時、近所に大手の喫茶店チェーンが進出してきたので、そちらにお客が流れ、経営が厳しくなった。
この状況で、老夫婦はメニューを増やしたりしたが、お客は増えなかった。追い込まれた老夫婦は、どうすれば店を手放さずに済むかを親しい人に相談した。聞いた人は2人。1人は商店街の会長のAさん、もう1人は古くからの友人のBさんだった。
相談されたAさんは聞かれるやいなや、厳しめの表情で『若い人に貸して店をやってもらえば良い。そうすれば店を手放さずに済む。その代わり、あなたたち夫婦は引退する必要がある。このままでは、店も働くことも両方失う』と言った。
一方、Bさんは少し考えて、店の外に出て駅の方を指さし、『駅前にはロッカーに入らない大きい荷物を預けたい人が大勢いる。喫茶店のスペースを荷物預かり場所にすればよい。そうすれば夫婦は引退する必要がない。店も働くことも両方続けることができる』と言った。
以降、Bさんが考えたビジネスは「荷物置き場シェアリング」と呼ばれ、多くの駅前で場所を貸したい店と大きな荷物を預けたい旅行客のニーズにマッチし、人気になったという。一方、大手喫茶店チェーンはこの事業に追随できなかった。置場シェアでは喫茶ビジネスを超える収益は期待できなかったからだ。
シェアリングは「自社に良いもの」として使おう
シェアリングとは、一般にモノや空間など共有することを指す。その出し手と買い手(使い手)を結び付けることを「マッチング」と呼ぶ。この荷物置き場シェアリングの本質は荷物を置く空間の出し手と買い手を結び付けるマッチングビジネスという点にある。
シェアリングの概念は古くからあり、珍しいものではない。例えば、同じ町内などで住民が所有する、たまにしか使わないモノを近所の人に貸して賃料を得るケースなどが該当するが、同じ町内という規模では多くの賃料は取れず、PRも煩雑なので大きなビジネスにはならない上、人手による作業が多く、効率が悪い。
データやデジタルがない時代、シェアリングは大きなビジネスにならず、既存のビジネスを壊すことはなかった。地域のマイナーな相互扶助の一環だったのだ。しかし、データとデジタルの活用で規模が拡大できるようになると既存ビジネスを壊せる存在になった。これでシェアリングビジネスが勃興した。
そうして生まれた「Uberはタクシー業界や自動車メーカーのビジネスと、Airbnbはホテルなど宿泊業界と競合した」というのが、シェアリングを厄介者とする人たちからの見方である。筆者はこうしたことを、シェアリングは立場の違いによって「良いもの」にも、「厄介なもの」にもなると主張しているのである。
ある立場の人から見れば「厄介もの」であるシェアリングだが、別の立場の人たち、特に消費者からみれば欲しいモノを安価に必要な時だけ使えるというメリットがあり、利用者訴求力が高い「ビジネスの仕掛け」であることは間違いない。
荷物置場の事例はシェアリングを「良いもの」として捉えるケースであり、良いと感じる立場の人は老夫婦や置場シェアリングを利用するお客である。利用客には重い荷物を置けるというベネフィットがあり、老夫婦には競合である大手喫茶店チェーンの対抗手段となっていることに注目してほしい。
つまり、シェアリングはお客の満足度を高めることで自社の商品やサービス価値を向上させ、競合から顧客を守ったり、新規顧客を増加させる手段として使える可能性を持つということだ。これに気付くか気付かないかが経営戦略の立て方に大きく影響する。
このため、筆者は誰でもシェアリングを活用できる力が必要と考えている。「厄介もの」と考えるのではなく「良いもの」にすること。それぞれの企業の経営戦略の手段としてシェアリングを上手に使うことが重要なのである。
では、どのように、「シェアリング」の成功ケースを作ればよいのだろうか。そのために筆者は、「シェアリングのチェックリスト」を使っている。これを使うことで、成功する可能性が高いシェアリングビジネスを考えることができる。
例えば、地方の空き家問題などは、データ、デジタルとシェアリングという「ビジネスの仕掛け」で解決できる可能性があり、古民家や空き別荘などや、その庭を1泊単位で使えるキャンプ、グランピング(高級キャンプ)などをベースとして、利用者価値を高めたサービスアイデアを考えることができるだろう。
ある高級自動車メーカーのシェアリング活用例
シェアリングは、必要なモノを低価格で消費者に提供できるという特徴を持ち、これが顧客体験価値を高める手段になる。最初から買わないで、まず使ってもらって利用価値を確かめてもらい、購入や利用につなげる方法なども有効な手段となる。
ある海外の高級自動車メーカーは、自社の高級車を利用者に販売するためにシェアリングを活用している。シェアリングは、自社の自動車の販売台数を下げてしまう可能性があるが、このメーカーは所得面などで、自社の自動車を買うことがなかった消費者層にシェアリングで体験してもらい、価値を感じてもらうことをビジネス戦略としている。
この事例は高級車だが、自転車、別荘といったモノの体験にとどまらず、新規ビジネスにも活用できる。新規ビジネスを開始する際に必要な専門知識を持つ人材を自社で採用すると固定費負担が高くなるので、変動費にするために「スキルシェアリング」を活用したり、店舗も自社で新たに準備するのでなく、「店舗シェアリング」を使うなど、効率的なビジネスを行える可能性がある。
このように、シェアリングは、余剰資産の共有だけでなく、自社商品やサービスの新規客拡大や、既存客の満足度向上に使うことも可能である。
それには、シェアリングを自社のメイン商材と競合する「厄介なもの」と捉えるのではなく、シェアリングの特徴を理解して、自社のビジネス戦略の中で、どこで使えば自社商品やサービスの価値が高まるのかを考えることが必要である。
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