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 冬に需要が高まる一方で、夏には売れなくなるチョコレート。どうすれば1年を通じて工場の稼働率を平準化できるのか?メーカーが抱えるこうした経営課題の打ち手として明治製菓が講じたのが、企業向けにチョコレートの原材料を販売する新事業部の立ち上げだった。2025年9月に著書『明治製菓カカオ事業部 逆境からの下剋上 「仕組み」で部下と顧客の心に火をつけろ!』(PHP研究所)を出版した明治ビジネスサポート元代表取締役社長の山本実之氏に、カカオ事業部の立ち上げと成長の軌跡について聞いた。

明治製菓が目指した「真の日本一」

──著書『明治製菓カカオ事業部 逆境からの下剋上』では、業務用のチョコレート原料を扱う部署の成長について描いています。なぜ、こうしたテーマを選んだのでしょうか。

山本実之氏(以下敬称略) 私は明治製菓に40年近く在籍し、カカオを扱う新規事業に取り組んできました。この経験は私でなければ語れないと思いますし、多くの方に役立ててもらいたいとも考えています。

 昨今、書店では新規事業に関する解説本が多く見受けられます。もちろん、理論や知識も大切ですが、新規事業の成功には「人」の力が欠かせません。そして、「人の力をいかにして引き出すか」というアプローチは業界を越えて共通すると考え、今回の執筆に至りました。

──明治製菓では、どのような理由からカカオ事業部の立ち上げに至ったのでしょうか。

山本 大きく2つの理由があります。

 1つ目は、真の意味での「日本一」を目指す、という明治製菓としての課題意識です。明治製菓は一般消費者向けのチョコレート市場のトップシェアを獲得し続けていましたが、それはあくまでも最終製品を扱うBtoC市場の話であり、業務用のチョコレート原料を販売するBtoB市場には進出していませんでした。

 社内では「最終製品がトップシェアというだけで本当に日本一といえるのか」という意見も出ていたことから、原料から最終製品まで一貫して取り組むことで日本一を目指す、という結論に至ったのです。

 もう1つは、季節変動への対応です。チョコレートは夏場には売れにくい商材です。冬場は工場がフル稼働するものの、どうしても夏場は生産ラインの稼働率が下がってしまいます。経営課題ともいえる「季節労働的な構造」を克服し、工場の稼働率を平準化するためにも、企業向けにチョコレートの原料を販売するカカオ事業の立ち上げに至ったのです。