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 デンソーの人事部が掲げるビジョン「PROGRESS」。自動車業界が大きな変革期にある中、社員と組織の在り方を再定義し、双方に新たな価値をもたらすことを目指すという。その実現に向けて、積極的に活用を進めるのが生成AIだ。デンソーでは人事部門と生成AIの協働をどう進めているのか。同社人事部部長の中岡周平氏が登壇したJapan Innovation Review主催セミナーでの講演の内容より、取り組みを紹介する。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第5回 エンゲージメント&ワークプレイス改革フォーラム」における「特別講演:デンソーが取り組む人事と生成AIの“協働”によるエンゲージメント向上のためのキャリア支援/デンソー人事部部長 中岡周平氏」(2025年9月に配信)を基に制作しています。

重視するのはエンゲージメント向上とキャリア自律

 デンソーは1949年の創業以来、自動車業界の成長とともに右肩上がりで成長してきた。とはいえ、一貫して順風満帆だったわけではなく、1989年のバブル崩壊や2008年のリーマン・ショックなど、外的要因によって経営方針の転換を迫られた時期もあった。

 経営の大きな節目では、人事部門のビジョンも進化させており、1998年には「Active21」を掲げ、成果主義と組織のフラット化を推進した。2010年に掲げた「Opening New Frontiers」では、チームワークとマネジメント強化に軸足を置いた。コロナ禍の2021年に、大義と個・キャリアをテーマとする「PROGRESS」へ移行している。

 PROGRESSの考え方の根底には、「人」と「組織」という2つの側面がある。人の面では、「情熱で自己新記録に挑むプロ」を育むことを目指している。課題は、いかに働く目的を意味付けし、内発的動機を高められるかだ。

 組織の面では、「多彩なプロが出会い・共創する舞台」をつくることを重視する。そのために現在は、組織や職種などのバリアをなくす取り組みを進めている。人と組織の力を掛け合わせることで、提供価値の向上につなげていく考えだ。

 人事部部長の中岡氏は、その実現に向け「特に力を入れているのが『エンゲージメント向上のためのキャリア自律』です」と語る。

  1990年代後半から海外展開を通じて大きく成長した同社には、かつて、海外赴任などのキャリアパスが明確にあった。しかし現在、自動車産業は電動化に伴う大きな構造転換のただ中にある。従来型のキャリアパスは、必ずしも成立しなくなっているという。

 成長の分水嶺に立つ中で、同社は事業ポートフォリオとともに「人のポートフォリオ」も変革する必要があると考えている。具体的には、専門性や能力、キャリア構造の再設計だ。かつてと比べてキャリアが視界不良になることで、不安を抱える社員も出てくる。人の感情に配慮する施策も講じなければならない。

 こうした状況下で、会社(組織)の価値観と個人の価値観を重ね合わせることが重要なテーマとなっている。口で言うのは簡単だが、実現するのは難しい取り組みだ。中岡氏は「マネジメントが中心となって、少しでも相互理解を深めようとすること、目指す姿の実現に向けた取り組みを継続していくことが大事だと考えています」と述べる。