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 日本は経済規模で世界第4位を誇る一方、幸福度では55位にとどまっている。この大きなギャップを「ウェルビーイング」という視点で捉えると、日本社会が抱える深刻な課題が浮かび上がる。幸福と経済をどう両立させるのか。『ウェルビーイングのジレンマ』(デロイト トーマツ グループ著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集、有識者や先進企業の事例を元に解決策を探る。

 ウェルビーイング研究の第一人者・武蔵野大学の前野隆司教授が説く、幸福な組織のつくり方、経営が担うべき役割とは?

VUCA時代にこそ求められるウェルビーイング経営

――企業においてもウェルビーイング経営が注目を集めています。どんな背景があるのでしょうか。

前野 将来の見通しがきかず、先の読めないVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代であることが背景にあると思います。幸福学では、幸せになる条件として「チャレンジ精神があること」「人と協力すること」などを挙げています。実は、これらはイノベーションの条件とも重なるのです。

 先の読めない時代だからと縮こまるのではなく、リスクを取って挑戦し、失敗を繰り返しながら次の時代をつくっていくマインドが求められているのではないでしょうか。逆に言えば、日本は幸せでないからイノベーションも起きにくいのかもしれません。

――ウェルビーイングを高めるには人に共感したり感謝したりすることが大切だと言われます。富や名誉といった目に見える価値を追いかけてきた人は、価値観を変える必要があるのでしょうか。

前野 富や名誉といった目に見える価値がもたらす幸せは、「ドーパミン型」の幸せで、強いけれども一瞬で終わります。一方、共感や感謝がもたらす幸せはオキシトシンやセロトニン型の幸せで、これは穏やかで長続きします。何かを成し遂げた時に「みんなのおかげだ」と考えることで、ドーパミンとオキシトシン・セロトニンの両方が出ます。そして、穏やかで長続きする幸せは、一度経験するとやめられなくなります。

 後者の幸せを感じるための最初のステップとしては、ボランティアなどの利他的な活動をしてみるのがお勧めです。無理やりでもやってみるとオキシトシンが出て、新しい幸せに気づけると思います。