出所:AdobeStock
企業組織の変革を阻害する「縦割りの弊害」。その一つとして、「V字の人間関係」の存在を挙げるのは、2025年7月、著書『トリニティ組織: 人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」』(草思社)を出版した日立製作所フェロー、ハピネスプラネットCEOの矢野和男氏だ。矢野氏によると、V字の人間関係は働く人の孤立感を高め、創造性や生産性を下げてしまうという。V字の人間関係とはどのような状態を指し、それを改善するためにはどのような対処法が考えられるのか、同氏に話を聞いた。
創業期には自然に生まれる「三角形のつながり」
――著書『トリニティ組織 人が幸せになり、生産性が上がる「三角形の法則」』では、企業内部の人間関係には、自分が普段対話するAさんとBさんの間には直接的な会話がないような関係性、いわゆる「V字のつながり」が多くなりがち、と述べています。なぜ、このような状況が起こるのでしょうか。
矢野和男氏(以下敬称略) そこには組織の階層構造が関係しています。企業規模が大きくなり、組織構造が複雑化すると、経営層は「統制」や「分かりやすさ」を重視するようになります。結果として、担当領域を明確に分け、互いの業務には口を出さない縦割りの構造が強まり、V字のつながりが増えるのです。
しかし、創業期の企業には、そもそもV字型の硬直した関係をつくる余裕はなく、むしろ自然に三角形的な関係が多く生まれます。
例えば、日立でもパナソニックでもホンダでも規模が小さく、創業者の存在感が大きい頃は、皆が自律的かつ創造的に動き、目の前の課題に全員で取り組んでいたはずです。役割分担はあっても柔軟性が高く、自然と三角形の関係が形成されたわけです。
高度経済成長の時代、日本企業の多くはV字のつながりが多い組織でも十分に機能していました。ところが今は社会が複雑化し、競争環境は日々激変しています。変化に対応するには、現場の一人一人が状況を理解し、広い意味でのクリエイティビティを発揮しながら柔軟に対応することが求められます。
そもそも人は本来、課題に対して、柔軟かつクリエイティブに自分事として取り組める状態を幸せに感じるのです。それにもかかわらず、V字型に偏った組織では、決められた役割や手順に従い「自分の担当外のことには関与しない」という姿勢になりがちで、横や縦のつながりが失われてしまっています。
結果として、変化に柔軟に対応することがますます難しくなります。







