売り上げをはじめ、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)やロイヤル顧客数といった指標だけでは測れない顧客体験(CX)やユーザー体験(UX)の手応えを、どう捉え、活かすか――。リアル世界がデジタル世界に包括される現象を解説してベストセラーとなった『アフターデジタル』の著者であるビービット藤井氏が、「アクティブ顧客」という新たな視点から、ロイヤル顧客化へのプロセスを可視化する方法と意義について解説する。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第5回 CXフォーラム」における「基調講演:アクティブ顧客戦略―LTVと短期売上をつなぐ重要指標/藤井保文氏」(2025年5月に配信)をもとに制作しています。

売り上げ重視のビジネス観では、デジタル接点の真価は測れない

 今、DXの潮流の中で、多くの企業がデジタルを活用した新たなサービスの構築や、顧客体験(CX)、ユーザー体験(UX)の向上に取り組まれています。

 しかし、その真価は正しく捉えられているでしょうか。「モノを売って、対価として金銭を得る」という既存のビジネスロジックにおいては、売り上げ偏重の評価になりがちですが、デジタルサービスの価値は、売り上げだけでは評価できません。

 例えば、一般にデジタルサービスの評価に用いられる「LTV」は「顧客1人がもたらす総利益」、「ロイヤル顧客数」は「繰り返し購入する顧客」と、どちらも売り上げに直結しています。

 これらの指標では、CXやUXといった非金銭的価値は評価できません。また、長期指標であるために、短期的な成果は測れないという欠点もあります。

 そこで、デジタルサービスの真価を測り、LTVのような長期指標との間をつなぐ指標として、私たちは「アクティブ顧客」という考え方を提言しています。

 アクティブ顧客とは、ロイヤル顧客ほどの顧客単価ではないものの、定期的に来店や購入があったり、ウェブサイトでのアクションやSNS閲覧などでコミュニケーションが取れていたりする顧客を指します。

 また、企業を1つのプラットフォームとして捉えたときに、そのプラットフォーム上でアクティブに動き続けてくれる顧客、とも言い換えられます。デジタルサービスの指標であるDAU(Daily Active Users=一日あたりの利用者)、MAU(Monthly Active Users=1カ月あたりの利用者)と似ていますが、異なるものです。

 アクティブ顧客とロイヤル顧客の関係、その重要性と波及効果、これをLTV向上につなげるためのポイントについて、次章から詳しく述べていきます。