レガシーシステムから脱却できないことによる経済損失を、「2025年の崖」と表した「DXレポート」が2018年に経済産業省から発表されてから6年。一定の進展は見られたものの、問題を抱えたままの日本企業は今も多い。レガシーシステムからの脱却を阻害している要因は何か。経済産業省の木村紘太郎氏に、最新の市場動向調査の分析結果と考察を基に、企業がとるべき対策の方向性について聞いた。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第2回 ITインフラ・モダナイゼーションフォーラム」における「基調講演:DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けた政策のご紹介/木村紘太郎氏」(2025年8月に配信)をもとに制作しています。

レガシーシステムの問題の放置が招く、危機的状況とは

 1990年以降、日本経済が低迷した「失われた30年」の間にも、技術は加速度的に進歩し、インターネット、モバイル、クラウドに続いて、今はAIという新たな波が起こっています。

 技術は人間のニーズや発想を大きく越えるようになり、企業がこれを活用して飛躍的な発展を遂げるには、人間だけでなくシステムも柔軟に技術に対応しながらキャッチアップしていく必要があります。しかし、レガシーシステムが大きな足かせになってそれができない、というのが日本の現状です。

 ところで、レガシーシステムとはどのようなものを指すのでしょうか。それは簡単に言えば、維持保守や機能改良が困難で経営・事業の足かせとなっているシステムです。

 技術観点では、保守の期限切れなどによる「技術の老朽化」、全体的な見通しを欠いたシステム増強・改修による「肥大化・複雑化」、設計図や仕様書がない「ブラックボックス化」。経営観点では、「IT投資がされていないこと」「古い制度としがらみ」が、環境の変化への対応を阻害し、レガシーシステムを生み出します。

「DXレポート」は、レガシーシステムが足かせとなって日本企業がDXを推進できずに経営改革が遅れ、デジタル競争の敗者となるというホラーストーリーを、「2025年の崖」として描いたものです。システムのモダン化が一定進んだ今も、状況はさほど変わっていません。

 レガシーシステムの問題は、個社にとどまらず、業界全体、さらには日本の産業全体の競争力低下につながるものです。

 また、2025年4月に起きた高速道路のETCシステムの大規模障害も、レガシーシステムに起因しています。国民のライフラインを脅かす同様の問題は、今後も続発すると考えられます。

 こうした事態に陥る前に、企業や業界、そして国がとるべき対策とは何か。経済産業省が産業全体を俯瞰するかたちで課題を紐解き、再定義した結果をこれからお話ししていきます。