グローバル競争が激化する中で、企業法務の役割も変わってきた。八代英輝弁護士はその変容を、「企業の暴走を止める『ブレーキ』から、ビジネスの方向性を示す『ハンドル』になった」と語る。生成AIと一体になったリーガルテックの最前線、テクノロジーとの融合によって新たな価値を創造する、次世代の企業法務について聞いた。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第8回 法務・知財DXフォーラム」における「特別講演:AI時代に試される「企業法務」の真価/八代英輝氏」(2025年5月に配信)をもとに制作しています。

「ブレーキ」から「ハンドル」へと変わる、企業法務の役割

 近年の企業を取り巻く環境の変化は、「DXの進展によるクロスボーダー化の加速」と言い換えることができます。デジタルを軸に国際競争、国際取引が盛んになっていることは、皆さんも日々、実感されていることでしょう。

 こうした中で、法務部門の業務は「紙の契約書を審査する」といったところから、国際契約管理、M&Aや合弁などのプロジェクト管理、コンプライアンス、危機管理、紛争対応、リスクマネジメントなど、多岐にわたるようになりました。

 今、法務・知財部門に期待される役割が、根本的に変わろうとしています。その1つが、従来のバックオフィスとしての「コストセンター」から、ビジネスを加速させる「プロフィットセンター」への変容です。

 リスクマネジメントや法令遵守によって、企業経営の暴走を止める「ブレーキ」となることは、企業法務の重要な役割の1つです。この点については、今後も変わりません。

 しかし、これからの時代には、企業の将来の方向性を決める「ハンドル」の役割が、より強く法務部門に求められるようになっていきます。特に、リーガルテックの成長が目覚ましい米国で、この傾向は顕著です。

 背景には、企業に「持続可能な在り方」を求める潮流があります。企業がDX戦略によって競争を勝ち抜こうとする際には、環境、人権への配慮、地域社会との共生など、社会的責任を果たしながら利益を追求する「エシカル(ethical)」な視点が欠かせません。

 利益追求型企業のハンドルとなり、CSR(企業の社会的責任)を実践するだけでなく、長期的な視点に基づいて企業価値を高める助言をしていく部門。これが、新たな企業法務の姿です。

 そして、法務部門が役割をシフトさせていくためには、まず「リーガルテック」について考えていかなければなりません。