ビジネス書の名著・古典は多数存在するが、あなたは何冊読んだことがあるだろうか。本連載では、ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、名著の「ツボ」を毎回イラストを交え紹介する。

 今回は、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」でマネジメント部門賞を受賞した『だから僕たちは、組織を変えていける』(斉藤徹著、クロスメディア・パブリッシング) を取り上げる。「働く意味」の変化を理解せず、形だけの組織変革を進めた企業は、どんな厳しい現実に直面したのか?

トヨタ式を導入したGMで不良率が倍増

『だから僕たちは、組織を変えていける』(斉藤徹著、クロスメディア・パブリッシング)

 1980年代初頭、アメリカのミシガン州ハムトラムックにあるゼネラルモーターズ(GM)の工場に、真新しいアンドンコードが張り巡らされた。作業員がひもを引けばラインが止まり、問題が即座に共有される…はずだった。カンバンは色分けされ、部品はジャストインタイムで流れ、セル生産の島ではベテランも新人も肩を並べる…はずだった。

 しかし1カ月後、不良率は旧ラインの2倍に跳ね上がり、稼働停止は日常茶飯事になった。「不良を出せば叱責され、ラインを止めても叱責される」。袋小路に追い込まれた作業員は、ボルトを緩めたまま部品を流す「隠れストライキ」で抵抗した。

 効率的な生産を行うためのツールはそろっていた。しかし、トヨタ生産方式(TPS)によって目指した生産性向上の狙いは絵に描いた餅に終わったのだった。

 この挫折が示すのは、仕組みを支える「人間観」「組織観」が組織に根を下ろさない限り、どんな革新的な手法も単なる儀式になってしまうという厳しい事実だ。

 TPSは、人間の潜在力を信じ、現場での工夫と改善を促す仕組みだ。標準作業をベースにしながら、現場の改善提案や柔軟な対応も重視する。しかしGMの工場では、形式的なマニュアルやルールが先行し、現場の主体性が育たず、トップダウン型の運用が行われたままだった。