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21歳でアイガー北壁登頂に成功し、当時の最年少、最短時間を記録して世界に名を轟かせたアウトドア用品メーカー・モンベル会長の辰野勇氏。辰野氏が28歳で創業した同社は今年で50周年を迎え、全国に120店舗以上を展開する人気ブランドに成長した。本連載では『経営と冒険 辰野勇 私の履歴書』(辰野勇著/日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋、再編集。冒険心と起業家マインド、リスクと決断、収益と社会貢献など、著者の実体験に基づく考察やビジネス教訓を紹介する。
今回は、顧客コミュニティ「モンベルクラブ」の設立やガイド業への進出、阪神淡路大震災から始まった「アウトドア義援隊」のエピソードを紹介する。
モンベルクラブ
『経営と冒険』(日経BP 日本経済新聞出版)
■ モノからコトへ一貫サービス
「自分たちの欲しいものを作りたい」そんな思いで創業したモンベルは登山やカヌーに必要な道具や衣料を開発してきた。
そして、「こんなものが欲しかった」と共感してくださるお客さまに支えられてきた。私にとってお客さまは同じ価値観を共有する同志のような存在だ。そして、自然を愛し生きる喜びを共感する仲間だとも考えている。
私が所属した社会人山岳会「大阪あなほり会」ではガリ版で刷り上げた手作りの会報誌を発行していた。会員の山行記録や登山情報を共有することで互いの連帯が強まった。
モンベルでも同様に、お客さまとの情報交換や価値観の共有をはかりたいと考え、1986年「モンベルクラブ」を立ち上げた。そして、その運営資金として年間1500円の会費をお預かりすることにした。当初はカタログ送付以外に何の特典やサービスもなかった。それでも1人また1人と入会者が加わった。
私は山岳会と同様に会報誌の必要性を感じていた。しかし人手がなくて実現には時間を要した。そしてようやく会報「OUTWARD」の発刊にいたった。「外に出かけよう」の意味を込めて私が命名した。創刊号には山岳雑誌「山と溪谷」の編集長と私の対談や、山や川の情報、道具の手入れ方法など、読者に身近な話題を掲載した。






