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 イノベーション創出の重要性が叫ばれて久しいが、言葉が独り歩きしている感も否めない。イノベーションの本質とは何なのか。本連載では、『イノベーション全史』(木谷哲夫著/BOW&PARTNERS発行)の一部を抜粋、再編集。京都大学でアントレプレナーシップ教育に当たる木谷哲夫氏が、前史に当たる18世紀、「超」イノベーションが社会を大きく変容させた19世紀後半からの100年、その後の停滞、AIやIoTが劇的な進化を遂げた現在までを振り返り、今後を展望、社会、科学技術、ビジネスの変遷をひもときながらイノベーションの全容に迫る。

 第4回は、革新的価値を生み出せなくなった日本の現状と問題点を踏まえ、「勝ち筋」を探る。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年6月24日)※内容は掲載当時のもの

勝つための正しい発想とは

 産業を振興するために、日本では、政府が音頭を取って、有力企業何社かに出資させコンソーシアムを作り、先端的な技術開発を狙う、といったプロジェクトがよくあります。オールジャパン、とか、日の丸プロジェクト、と呼ばれるもので、日本のお家芸であると言えます。

 日本人としてはぜひうまくいってほしいのですが、

  1. 大企業が少額ずつ出す寄り合い所帯で
  2. 具体的用途や顧客が不明な投資をする

 ということでは限界があります。

 半導体業界を例に、具体的に説明しましょう。

1. なぜ「寄り合い所帯」では勝てないのか?

 インテルやAMDでも見たように、現在世界をリードする半導体企業は一握りの突出した個人が作り上げたものです。

 インテルでは、ロバート・ノイスとゴードン・ムーアが製品を開発し、アンディ・グローブが優れた経営力で育てました。AMDでは天才設計者ジム・ケラーがチップを開発し、経営者のリサ・スーがそのポテンシャルを開花させています。

 また、M1チップの開発などアップルの開発全体を率いてきたのは、ジョニー・スロウジ(Johny Srouji)という人物です 。ジョニー・スロウジはイスラエルのハイファに生まれ、テクニオン工科大学を首席で卒業した天才で、2019年にはインテルが次のCEO候補として検討したことが報じられたりもしています。スティーブ・ジョブズは、アップルで自前の半導体を開発するために、ジョニー・スロウジを自分の給料の4倍を払ってヘッドハントしたのです。