電通デジタル CAIO(Chief AI Officer:最高 AI責任者)兼 執行役員の山本覚氏(撮影:榊水麗)

 デジタルマーケティングを手掛ける電通デジタルにおいて、AIを活用した広告ソリューション開発をリードするのが、CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者)の山本覚氏だ。東京大学・松尾豊教授の松尾研究室(現松尾・岩澤研究室)でビッグデータ解析やAIの研究に携わった後、2013年にデータアーティストを起業。2018年に電通グループに参画した(2023年に電通デジタルと合併)。10年以上にわたり、一貫して広告ビジネスに身を置きながらAIの可能性を探求し続けてきた山本氏。今日の生成AIの台頭が広告ビジネスにもたらすインパクトをどう捉えているのだろうか。

生成AIが広告ビジネスにもたらすインパクト

――AIを活用したマーケティングソリューションブランド「∞AI(ムゲンエーアイ)」のバージョンアップでは、AIエージェント機能の実装がポイントの1つとの話がありました(前編を参照)。生成AIの登場が、広告ビジネスにもたらすインパクトを、山本さん自身はどう考えていますか。

山本覚氏(以下敬称略) 一言では答えにくい質問ですね。いくつかのポイントに分けてお話しします。

 まず、生成AIは調査・分析やクリエイティブなど、さまざまな作業を代替してくれます。これによって、人間が本来やるべきマーケティングやコミュニケーションに向き合えるようになったことのインパクトは大きいと思っています。

 例えばマーケティングにおいては、これまでは人間が直接データの分析をしながらインサイトを探っていました。しかし、これからはその間にAIエージェントが入って、裏側のデータ分析はエージェントが担い、人間はエージェントと会話するだけ、という世界が実現します。

 私はこの変化を、「人間のマーケターは不要になる」という悲観論ではなく、むしろマーケティングの本質に回帰するポジティブな動きと捉えています。どうすれば人は喜んでくれるか。感動してくれるか。そんな人の心を動かすインサイトを発見し、購入などの行動変容につなげるのが、マーケティングで本来やりたかったことですよね。