レゾナック・ホールディングス 取締役 常務執行役員 最高財務責任者(CFO)の染宮秀樹氏(撮影:今祥雄)

 昭和電工、日立化成という国内の大手化学メーカー2社が経営統合し、2023年に誕生したレゾナック。統合によって国内市場での存在感は高まったが、世界トップとの差は大きい。差別化戦略が求められるなか、決断したのは「半導体材料メーカー」への道だ。同社が目指す「スペシャリティケミカル」への投資、人材戦略について、レゾナック・ホールディングス取締役常務執行役員、最高財務責任者(CFO)の染宮秀樹氏に話を聞いた。

本稿は「Japan Innovation Review」が過去に掲載した人気記事の再配信です。(初出:2024年9月2日)※内容は掲載当時のもの

半導体材料に経営資源を集中投資

――レゾナックは、グローバル市場で成長するための戦略として、総合化学企業から「スペシャリティケミカル」企業への変革を進めています。そうなることで、どんな強みを発揮できるのでしょうか。

染宮秀樹氏(以下・敬称略) 当社は統合後の事業ポートフォリオの見直しで、従来から持つ強みの1つである半導体材料の製造を今後の事業の中核と位置づけ、変革を進めています。これはご存じのとおり、AIや電気自動車(EV)の急拡大を中心にした半導体市場の中長期での拡大を見越したものです。

 直近ではEVの成長カーブがいったんなだらかになるなど、短期的な市場の変動はあります。また、コロナ禍でクラウドサービスが爆発的に伸びたことによる、データセンター向け半導体のバブル的な需要からの反転がありましたが、直近では底を打った印象です。こうした波はあるものの、中長期の大きなトレンドを考えれば、今後AIとEVが大きく成長することは間違いなく、その成長は半導体なくして実現しません。

 当社は、そこに経営資源を集中投資していく経営判断をしました。これは、先端材料を提供することで、「化学の力で社会を変える」という当社のパーパスにも合致している戦略です。

 では、半導体製造の中で、当社の材料がどのように使われているのか、概要をお話しします。

 半導体の製造は、大きく「前工程」と「後工程」に分かれます。簡単に言うと、前工程で微細な電子回路をシリコンウェハー上に形成し、後工程ではウェハーを一つひとつのチップに切り分け、複数のチップを積層したり接続したりした後、全体を樹脂で覆い、パッケージ化します。当社はその両方の工程で使われる材料で、世界トップシェアの製品を複数保有しています。

 まず前工程ですが、ウェハー上に回路を形成するための「エッチングガス」、ウェハーの表面を平滑に磨く際に使う「スラリー」があります。エッチングガスと、セリア系のスラリーでは世界トップシェアです。半導体の高性能化が進むほど、ウェハー上に形成する回路の層数が増えます。それに伴い研磨回数が多くなりスラリー(液体状の混合物)の使用量は増えるため、技術進化に合わせて需要が拡大していきます。さらに、半導体の生産量が増えることによって、指数関数的な市場の伸びが想定されます。

 一方の後工程は、さらにこの指数関数的な伸びが顕著になると見込んでいます。なぜなら、前工程にあたる回路の微細化は、以前と比べて技術的な限界が近づいてきています。その代わりに、半導体としての性能を向上させるには、パッケージにする後工程の段階でどれだけ機能を詰め込めるか、にテクノロジーのトレンドが移ってきているからです。