1910年、創業者の藤井林右衛門が横浜に開店した洋菓子店をルーツとする老舗食品メーカーの不二家。洋菓子事業と製菓事業が柱の同社は、コロナ禍の巣ごもり期間で“おうちスイーツ”需要が伸びたものの、コロナが収束した2023年は一転、巣ごもりの反動減に原材料高も重なり苦戦した。今後の不二家の勝ち残り戦略について、同社の河村宣行社長に話を聞いた。
苦渋の決断を強いられた「減量政策」と「価格改定」
──昨年(2023年)は巣ごもり需要の反動減に加えて原材料高が追い打ちをかけ、一時的に業績を落としました。
河村宣行氏(以下敬称略) 最もインパクトがあったのは鳥インフルエンザの影響で、それまで物価の優等生と言われてきた卵の価格が2023年の年初から高騰したことです。
品薄状況になる中でスーパーへの卵の供給が最優先されたので、われわれが使用する加工用卵は大きな供給制限を受けました。価格が高騰した上に量も確保できないという二重苦に陥ったわけです。その結果、洋菓子事業が苦戦を強いられました。
また、洋菓子事業以上に打撃を受けたのが製菓事業でした。すでに2022年から始まっていた原材料高の中、価格は据え置いて内容量を減らしたりすることで対処してきましたが、それも限界に近づき、2023年3月に価格改定をしています。
製菓事業の中で販売ボリュームが最も大きい商品は「カントリーマアム」や「ホームパイ」など、われわれが「大袋」と呼んでいる特売中心に売る価格訴求型商品です。その大袋商品を値上げしたことで消費者の方々が敏感に反応し、一時期は販売が前年比で60%の水準まで落ちました。そうなると当然、工場の稼働率も低下しますので、利益を下押しする結果になりました。
──今年に入って売り上げは回復基調にあるそうですが、底打ちの手応えはいつ頃からありましたか。
河村 昨年10月、工場の稼働率を上げるために思い切って商品の増量をしましたが、そこからようやく販売数量が回復してきました。
増量政策は今年3月まで続けて、4月以降は再度、内容量を減らしたのですが、おかげさまで売り上げは伸びています。売れ筋の大袋商品の値上げは当社が先行したことで大きな影響が出ましたが、競合商品も値上げしたことで、消費者が価格にある程度慣れてきたこともあるかと思います。そのため、昨年は減益だった製菓事業ですが、一気に回復している状況です。
──とはいえ、今後も原材料高は続く可能性があります。
河村 はい。今はチョコレートの主原料であるカカオ豆の価格が高騰しており、今年に入ってチョコレート商品は4月、7月、9月とすでに3回の値上げを実施している状況です。
内容量を減らせる商品もありますが、例えばチョコレートの「LOOK(ルック)」は12粒入りで箱がピッタリサイズですので減らせません。箱をサイズダウンしようと思えば生産設備も全て変えなければならず、大ごとになってしまいます。洋菓子事業のケーキをはじめ、チョコレートを使用する商品が非常に多い当社にとっては頭の痛い問題です。