エンジンが無いことで得られるものがる
街が近付いてきて、流れ去っていく光景にこちらから溶け込んでいくような、我を忘れるような気持ちになっていくのです。自分の718ボクスターはエンジン車なので、アクセルペダルを踏み込んで加速していったり、パドルで変速してギアが変わるとエンジン音が高まります。クルマ好きが良く口にする「クルマを操っている」実感が得られる瞬間です。
でも、アバルト500eやフィアット500eには、それがありませんでした。でも、無いとつまらないわけではなく、反対にエンジン音とともに高まっていっていた「俺が、俺が」という自意識がどんどんと抑えられていって、ニュートラルでフラットな開かれた気持ちになっていったのです。つまらないどころではなく、静謐な中で五感が研ぎ澄まされていくのをはっきりと自覚できました。
クルマ好きの常套句に、「エンジン音こそ、スポーツカーの証」とか「クルマを意のままに操るためには、エンジンからの音を聞かなければならない」といったようなものがあります。確かにこれまではそうだったかもしれませんが、もはや後ろ向きですよね。新たなEVの時代になったら、新しい感覚が産まれていくのです。エンジン音など軽く超越する身体体験を、EVオープンはもたらしてくれると確信しています。718ボクスターのEVでも同じ感覚が得られ、プラスアルファも期待したいですね。
オープントップEVがもたらすスポーツドライビング
ただし、アバルト500eの真似をしなくてもよいところもありました。サウンドジェネレーターと呼ばれる機能です。車内外に向けたスピーカーからアバルトのエンジン音を模した効果音を流すのです。アクセルペダルの踏み具合や加減速などに応じて、音の大きさや調子も変わります。ブブブ~ッと目立つ音です。設定でオフにもできます。
けっこう目立つ音で、交差点を左折した時にそれが聞こえたらしい歩行者から怪訝な顔をされたほどです。アバルトであることを無理矢理にでも特徴付けようとする演出ですが、ギミックですね。718ボクスターのEVには不要です。必要なのは、歩道のない道などで周囲の歩行者にこちらの存在を知らせるための人工音でしょう。明瞭に聞こえて、なおかつ不快でない音であれば十分。ギミックは要りません。
アバルト500eは、フィアット500eよりも37馬力高められた155馬力の最高出力を持っていますから、速さに驚かされました。停止状態からの加速が静かで滑らかなのはEVならではですが、そこに力強さが加わっています。驚かされるのは、発進から速いだけでなく、速さがずっと続くのです。
首都高速で、周囲のクルマの流れと調和させながら60~70km/hぐらいで走らせていて、前が空いて巡航状態から加速を重ねたとします。そこから80km/hあるいは90km/hぐらいに達するまでがアッという間で、とても速く感じます。
床下に搭載しているバッテリーの重量によって、走行中の姿勢が安定しているのも良い。これはフィアット500eと共通する美点で、EV化によるものです。エンジン車時代は、つねにいろいろな方向にヒョコヒョコと揺れ動いて落ち着きがありませんでしたから、EV化による効能のひとつですね。
回生は強め。アクセルペダルを戻すと強めに減速して、フットブレーキを踏むのは停止する最後の瞬間だけで済む場合が多い。ほぼワンペダルドライブが可能で、慣れると使いやすい。ワンペダルドライブも、自分のアクセルワークで運転をコントロールしている気にさせてくれます。
そうしたEVの特質がスポーツカードライビングの面白みを向上させることは、当然、718ボクスターでも実現されることでしょう。ポルシェのことですから、718ボクスターのEV化にきっと何かこれまで意識されてこなかったような新しいエキサイトメントを用意しているはずです。それに期待しているというのが、早く乗ってみたい二つ目の理由です。
オープントップを持ったEVというのは稀少で、中古エンジン車をEVに改造したものを除けば、現在のところ日本で購入できるのはアバルト500eとフィアット500eそれぞれのカブリオレしかありません。過去にも、テスラの最初の量産モデルがロータス・エリーゼのボディを流用したものだったくらいしか僕は知りません。
718ボクスターの次期モデルがEVなのだとするならば、それらに続くものとなります。アバルト500eとフィアット500eのカブリオレで感じた運転感覚と共通するような新しい体験が得られ、そこにEVならではの速さや鋭さなどといったものが加わっていることを夢想してしまいます。