「アンリアレイジ」森永邦彦の思想を、服飾史家中野香織が読み解く。

文=中野香織

デザイナー、森永邦彦氏は1980年東京都生まれ。早稲田大学を卒業後、バンタンデザイン研究所で服づくりをスタート。2003年にアンリアレイジを設立すると、わずか数年で東京コレクションを代表するブランドに成長。2015年春夏からはパリコレクションに発表の場を移し、世界的な評価を獲得する。フランスのポンピドゥー・センター・メスや森美術館で展覧会を開催するなど、その作品はアート的な観点からも注目されている

モードをめぐる冒険物語

 デザイナーが、東京タワーの事務所で土下座しているシーンから物語が始まる。

 森永邦彦と神田恵介が東京タワー大展望台でゲリラ的なファッションショーをおこなった結果、その余波を受けた人たちは激怒している。東京タワーの管理者は、許可を得なかったことに対して。そしてファッションジャーナリストは、バックステージで服が見られなかったことに対して。激しすぎる、暗と明のリアクション。

 映像がありありと眼前に浮かぶようなこの最初のエピソードから心奪われ、アンリアレイジのデザイナー、森永邦彦の人生にぐいぐい引きずり込まれていく。『AとZ アンリアレイジのファッション』(早稲田大学出版部)は、モードとは何かを考えさせてくれるばかりでない。好きなことを仕事にすると何が起きるのか、キャリアはいかに築かれるのか、人生を生きるとはどういうことか、ということまで考えさせる。デザイナーの波乱に満ちた冒険物語をたどりながら、モードという神秘のベールに包まれた世界を創っている人が何を考えているのか、その内側に導かれていく。

アンリアレイジのデザイナー、森永邦彦氏による初の書き下ろし書籍。ブランドの歩みからものづくりのヒントまでを率直に綴ったこちらの作品は、AMAZONや都内の書店を中心に販売されている。990円/早稲田大学出版部

終わりなき非日常を生きるために

 アンリアレイジというブランド名にあまりなじみのない読者のために、簡単に紹介しよう。1980年生まれの森永邦彦は、予備校時代に神田恵介と運命的な出会いを果たし、彼の後を追って早稲田大学社会科学部に入学、在学中にバンタンデザイン研究所に通って服作りを始める。2003年、「ANREALAGEアンリアレイジ」を立ち上げた。ANREALAGEは、A real(日常), Unreal(非日常), そしてAge (時代)を組み合わせた造語である。ミース・ファン・デル・ローエの「神は細部に宿る」という概念を創作の芯にもち、マニアックなほど細かいパッチワークと最新のテクノロジーを用いた洋服づくりを特徴とする。テーマとコンセプトこそ服作りの根幹と言い切り、人間の身体を超えた独創的で挑発的な作品を発表し続け、世界のクリエイターに刺激を与えている。2015年春夏コレクション(2014年発表)よりパリコレクションに参加している。