世代交代期の今こそ、目の当たりにできるもの
「今は数十年に一度の世代交代期」という児玉さんは、上の世代の輝きをしっかり目に焼き付けて観ておくことと、絶対面白くなる若手たちからのスター誕生をウォッチすることを勧める。
「40代の上の世代はすでに別格として、30代後半にさしかかる松也あたりから、20代、そして市川團子(19 歳)と市川染五郎(18歳)ぐらいまでの世代に、たくさんの若手がいます。清元延寿太夫を父に持つ尾上右近(31歳)に期待をかけない歌舞伎ファンはいないですし、父・中村富十郎が早く亡くなっている中村鷹之助(24歳)は踊りが達者です。
彼らの中でそこそこの人気者は出てきたが、歌舞伎を背負う大スターになっていくのは誰なのか。古典も勉強していて、新しいものもできるということが必要でしょうね。
いかに名門に生まれても、最終的に役者は実力次第です。名門に生まれたらまわりが全部おぜん立てしてくれて大丈夫だという誤解があるかもしれないけれど、そうはいきません。
どんな名門の御曹司だったとしても、未熟なところをそのままにしていたらカバーしきれません。
たとえば、中村吉右衛門(2021年没)は、若いころ声がでなかった。だから義太夫をやり清元をやり、のどを鍛えてあの声になって、名舞台の数々をつとめました。上がっていく人は、弱点を克服するために努力をしているのです」
運も実力のうちというが、運を呼び込むためには準備していないといけない。児玉さんは、
「芸の神様は、必死に努力している人を見逃さない」ということに尽きるという。
「今のところ、まだ混沌です。歴史上、世代が変わるときには、いつも必ず誰かが抜け出してきました。そして『え?彼が?』と驚くほど、ぐぐぐっと伸びるんです。今は、それを目の当たりにできる、またとない時期ということですね」
※年齢は記事公開時点(2023年7月19日現在)。