アフターコロナの劇場で人気なのは子役たち……。市川團十郎の長男「かんかん」こと市川新之助、寺島しのぶの長男 尾上眞秀(おのえまほろ)ら注目の少年たちは、古典芸能の中にあってもしっかりと時代のニーズを先取りしています。歌舞伎研究で知られる児玉竜一さんに、歌舞伎の今を指南してもらうシリーズ。第2回は、観客動員数をも左右する、子役たちの新しい魅力を読み解きます。

文=新田由紀子 撮影=市来朋久

画像提供=アフロ

日本一知られた歌舞伎子役 市川新之助・10歳

 ここ数年、チケットパワーをもつ子役ナンバーワンとして知られる市川新之助は、2022年12月、『毛抜』の主役を史上最年少の9歳でつとめた。父である十三代目市川團十郎白猿の襲名披露並びに八代目市川新之助の初舞台となった歌舞伎座「十二月大歌舞伎」だ。

「彼は舞台に出るよりも先に有名になってしまいましたが、『毛抜』の膨大な台詞をしっかり覚えて、立派にやりおおせていました」と児玉さんは、言う。

 市川新之助の本名は堀越勘玄(ほりこしかんげん)、愛称はかんかん。歌舞伎の子役として、日本で一番知名度のある10歳だろう。市川團十郎とフリーアナウンサーの小林麻央の長男として誕生したが、わずか4歳で母を亡くしている。そうした生い立ちのせいもあって、2歳上の姉、市川ぼたんとともに、早くからテレビやSNSに登場して注目を浴び続けてきた。

 7月には歌舞伎座「七月大歌舞伎」の『鎌倉八幡宮静の法楽舞』に、父、團十郎、姉、ぼたんとともに出演、9月には福岡の博多座で襲名披露公演「九月博多座大歌舞伎」も控える。

 

子役たちとテレビの関係

早稲田大学文学部教授、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長 児玉竜一氏

「歌舞伎役者は、他の芸能人の子どもたちとは違って、小さい時から家族そろってメディアに登場することになります。いずれ大きくなって舞台に出ることが予想されるので、顔出しで出てくるわけです」(児玉さん・以下同)

 子どもの顔を堂々と出すことができる歌舞伎役者一家の密着番組が一般化したのは、昭和50年代末ごろのことだ。

「それ以降に子役として育った世代は、上の世代と違ったところがあるかもしれません。尾上菊之助(45歳)、市川團十郎(45歳)、中村勘九郎(41歳)、中村七之助(40歳)は、物心ついたときから、まわりにマスコミがいるのが当たり前で、観客はいつも来るものだと思って育った。ある時、親元を離れて公演に出た若手が『え?歌舞伎っていつも満員なんじゃないの?』と驚き、『若旦那、そうじゃないんですよ』と言われたという話もあります。一方、たとえば松本幸四郎(50歳)が子役として育った時には、まわりにテレビカメラなんかいなかった。だからなんとかお客を呼んでこなきゃいけないという意識が早くから高かったのでしょうね」

 新之助の時代には高い伝播性を持つSNSが新たに加わった。Ameba Blogのランキング1位を続けている團十郎のブログに絶えず登場し、YouTubeでは小さい時から食事や遊びなど生活の様子がアップされてたくさんの目に触れてきた。

「子役としての密着ドキュメンタリー的なものは、あと数年でしょうから、その後どうなっていくかですね。父親の團十郎ばかりを観るのではなく、他の役者の歌舞伎も観て育っていくといいと思います。ともかくものおじしないし、襲名の舞台で1時間近い『毛抜』を演じてのけたのはあっぱれなことで、その経験が、この先よりよい方向に生きればと思います」