5月歌舞伎座で初舞台 10歳の日仏ハーフ・尾上眞秀

歌舞伎座 画像提供=アフロ

 5月の歌舞伎座で行われた「團菊祭五月大歌舞伎」の『音菊眞秀若武者(おとにきくまことのわかむしゃ)』では、10歳の尾上眞秀が満員の観客の拍手喝さいを浴びながら、初舞台に立った。

 有名役者の居並ぶ中に女童姿で現れ、叔父の菊之助や團十郎と踊ったのち、実は親の仇を打つために女の子といつわった男の子なのだと明かす。次の場面では、若武者姿で祖父である菊五郎に魔力をもらいながら、狒々の化け物や悪者たちと立ち回り、喝さいを浴びて花道を引っ込んでいく。

 尾上眞秀の本名は寺嶋眞秀。女優の寺島しのぶとフランス人でアートディレクターのローラン・グナシアの間に生まれている。祖父は人間国宝の尾上菊五郎、祖母は女優の富司純子。叔父は五代目尾上菊之助だ。

 2017年、5才の時に本名の寺嶋眞秀で、歌舞伎座『魚屋宗五郎』の丁稚役として初お目見え。菊五郎扮する宗五郎宅に酒を届け、堂々とセリフを言うかわいらしい姿で注目を浴びた。その後、毎年歌舞伎の舞台に立ち、花王のCM、NHK大河ドラマ『どうする家康』などテレビにも出演、今回、初代尾上眞秀を名のり、初舞台となった。

 2月7日に行われた初舞台記者会見の会場は、東京港区のフランス大使公館。フィリップ・セトン駐日フランス大使らに見守られる中、眞秀はフランス語と日本語で堂々と挨拶した。初日に先立って開かれた4月19日の会見。10歳で歌舞伎の記者会見に単独で出席したのは史上初。『徹子の部屋』にもひとりで出演して、黒柳徹子に自分の思うところを語るしっかりした姿も話題になった。

「最初から舞台度胸がある子だという定評があります。今までにもハーフとされる歌舞伎役者はいないわけではありませんでした。私にもハーフの従妹がいるのですが、アメリカ育ちで日本人離れした顔に成長しました。大きくなってみないと日本人顔になるか、西洋人顔になるかわからない。着物を着て、髷のかつらで江戸時代の日本人を演じて、違和感のない役者に育ってくれるといいですね」

 

寺島しのぶ夫妻のフランス式子育て

 歌舞伎の家に生まれた女の子は、自分が男に生まれなかったばかりに舞台に立てないことを突きつけられ続けて育つ。眞秀は、悔しさを抱えて実力派女優となった母・寺島しのぶのそうした思いを背負って生まれてはいるが、母の言うままに育ったというわけではなさそうだ。

 母親の寺島しのぶは、フランスの子育ては日本の子育てより一歩まさっていると感じたと語っている。例えば彼女が幼い眞秀に寒いから上着を着るように言うと、フランス人である父親のローランは、それは眞秀が決めることで寒かったら彼自身の責任だから、親が指示することではないと言っていたというのだ。

 そうした個を尊重し責任も持たせるフランス式子育てのもと、一家では、歌舞伎の道に進むことも、稽古のひとつひとつも、眞秀自身が選んでやっていくのだと明確にしてきたようだ。彼の初舞台姿には、納得しないことはやらないといった頑固さが感じられる。多様性の時代にあって、親やお師匠さんたちの言うことを聞くのがよしとされて育った従来の日本の子役とはひと味違う歌舞伎役者への成長も興味深い。