「部屋子」から関西歌舞伎を背負う存在となった片岡愛之助

早稲田大学文学部教授、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館館長 児玉竜一氏

 ドラマ『半沢直樹』での独特の口調の敵役、また女優・藤原紀香の夫としても知られる片岡愛之助(51歳)。彼は一般家庭に生まれて、のちに歌舞伎界に入っている。

 子役として、テレビドラマに出演し、歌舞伎の舞台に立っているところを、当代片岡仁左衛門の父、13代目片岡仁左衛門(1994年没)に見いだされ、1981年に部屋子となる。その後1993年には、13代目仁左衛門の息子である片岡秀太郎(2021年没)の養子になった。

「部屋子にするというのは、弟子以上、御曹司未満として抱えること。“この才能は逃したくない”という子がいたときに、普通のお弟子より少しいい役が回ってくる立場に置くわけです。部屋子として抱えられて、さらに養子に迎えられる。坂東玉三郎がそうでしたし、若手では中村莟玉(かんぎょく)もこの道をたどっています。そして今や、愛之助は松島屋を背負っていく一人になりました」

 歌舞伎には、江戸歌舞伎と関西歌舞伎という、色合いを異にする大きなふたつの流れがある。江戸時代に上方を中心に発展した関西歌舞伎は、江戸歌舞伎がさっぱりとして勇壮なのに対して、柔らかみのある独特の世界を展開する。児玉さんは、愛之助が関西ネイティブで、関西の言葉を自在に操れるのが強みだという。

「関西歌舞伎でそれはとても大事なことで、できる役者がほとんどいなくなっている中、非常に貴重です。 東京役者の上方芝居や、関西役者の江戸芝居があって、もちろんいいのですが、本家本元の上方芝居が健在でなくてはなりません。

 愛之助は、関西の劇場では早くから人気があり、どうやって全国区になるだろうと言われていたところで、『半沢直樹』のあの役で有名になったのはちょっと意外ではありますが。歌舞伎でも、『夏祭浪花鑑』の団七、『女殺油地獄』の与兵衛といったら愛之助、と言われるような持ち役もできています」

 8月には京都南座の『坂東玉三郎特別公演 怪談 牡丹燈籠』に出演する。