中長期的な企業価値向上の実現に向けて、多くの企業がコーポレートガバナンス改革に奮闘している。IHI取締役常務執行役員人事部長の瀬尾明洋氏、経済産業省産業組織課・課長の安藤元太氏、ボストン コンサルティング グループのパートナー&アソシエイト・ディレクターの日置圭介氏の3人による、自由闊達(かったつ)なディスカッションを通じて、コーポレートガバナンス改革の在り方や、改革を進める上で企業に求められる要点が見えてきた。
※本コンテンツは、2022年10月24日(月)に開催されたJBpress/JDIR主催「第3回 経営企画イノベーション」のパネルディスカッション「持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現へ~コーポレートガバナンス改革と企業の主体性~」の内容を採録したものです。(役職等は講演時点のもの)
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「CGSガイドライン」改訂の狙いとポイント
日置圭介氏(以下、日置) 持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現をテーマに、コーポレートガバナンス改革と企業の主体性について、IHI取締役常務執行役員人事部長である瀬尾明洋さん、経済産業省産業組織課の課長であり、コーポレートガバナンスやM&A分野を担当している安藤元太さんと共に、ディスカッションを進めていきます。最初に2022年7月に改訂された「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」について、改訂の狙いを安藤さんに伺いたいと思います。
安藤元太氏(以下、安藤) 元々、日本のコーポレートガバナンス改革は、成長戦略の一環として実践してきた側面があります。ところが、なかなか目指すべき姿にたどり着けない実情がありました。「なぜ企業が成長できていないのか」という問題意識をベースに「何か目詰まりが起きているのではないか」という視点で議論を進めました。
日置 具体的にどのようなことに着目したのでしょうか。
安藤 監督側だけでなく、執行側の機能も強化することの必要性です。ガバナンスというとどうしても監督機能の強化に注目しがちですが、実際に経営を行うのは社長であり経営陣です。取締役会の重要性が高まるにつれて、独立立場からの監督だけでなく経営戦略を共に作り上げる要素も増えるでしょうし、両者の関係をどのように形づくるかも重要になります。このような考え方に沿って、中長期的な企業価値の向上に寄与する経路を4つ整理しました。1つ目に経営陣自体の強化を図ること。2つ目は取締役会が戦略の検討に関わり適切な資源配分を実現すること。3つ目が経営の意思決定過程の合理性を確保し、大胆な経営判断を後押しすること。4つ目は市場や投資家との対話を通じて経営を改善することです。
日置 瀬尾さんは、実際にコーポレートガバナンス改革に取り組む企業の立場から、この改革の流れをどのように見ていますか。
瀬尾明洋氏(以下、瀬尾) 競争力を高めるためには企業に何が必要なのかを改めて考え、その道筋の中でコーポレートガバナンス・コードにうたわれていることが会社にとってどういう意味があるのかを一つ一つ解き明かしていく作業が必要ですね。それをせずにガバナンス・コードを受け取っても、意義がよく分からないということになってしまうでしょう。持続的な成長に向けて真面目に取り組むという基本に立ち返らなければ、ガバナンス改革はあまり意味がないと思います。