コーポレートガバナンス改革が進む昨今、ガバナンスを行使するためのマネジメント能力にスポットライトが当てられている。先行きの見えない荒波を乗り越えていくために必要な「コンフリクトのある意思決定」は、どのように行っていくべきなのか。東京都立大学大学院経営学研究科教授の松田千恵子氏に、サステナビリティ経営の本質や、目指すべきコーポレートガバナンスの実践についてお聞きした。

※本コンテンツは、2022年6月29日(水)に開催されたJBpress/JDIR主催「第2回サステナビリティ&ダイバーシティ経営フォーラム」の基調講演「サステナブル経営とコーポレートガバナンスの進化」の内容を採録したものです。

目まぐるしいビジネス環境の変容により進化するガバナンスの定義

 2015年に「コーポレートガバナンス・コード」が導入されて以来、「ESG(環境・社会・ガバナンス)」や、それに伴う「サステナビリティ」という考え方がよりクローズアップされている。

 東京都立大学大学院経営学研究科教授の松田千恵子氏は「ESG」の中で「G(ガバナンス)」が注目されている理由について、「ビジネスの変容が著しいから」と説明する。昨今のビジネス環境は、週単位、月単位で変化している。同氏は、この状況を「台風の中で船をこいでいるようなもの」と例え、「だからこそ船長の難しい意思決定、つまりコンフリクトのある意思決定が必須になります」と話す。

「マストをすぐに切り倒さなければ船は沈んでしまうかもしれない。でも、マストを切り倒せば陸にたどり着けないかもしれない。そんなとき皆さんは、どちらを選択するでしょうか。現代の経営者は、スピード感をもってこういった決断をしなければなりません。つまり、強力なマネジメントが求められているのです。それと同時に、強力なマネジメントが暴走しないよう、マネジメントをチェックする機能の必要性も高まっています」

 こういった大きなビジネス変容の中で求められるのがガバナンスであるが、松田氏はコーポレートガバナンス自体を誤解している人が多いと、指摘する。

 ガバナンスというと、「株主の言うことを聞かなければならない」「シェアホルダー主義とステークホルダー主義は対立するものである」「経営者が従業員の監督をするものである」というイメージを持っている人が多いが、「これらは全て間違っている」と松田氏はいう。

 冒頭の例えでいえば、株主は船の所有者であるが、実際に船を運航する力はない。従ってそれをプロフェッショナルに任せる。これが経営者である。経営者が船を正しい方向へ進めているのかをチェックをするのがガバナンスであり、その場が株主総会、さらには船に一緒に乗り込みチェックをする取締役会だといえる。

 また、株主は株式会社の所有者であるが、それ以外のステークホルダーは企業という法人と契約を結ぶことで利害関係を有する。こうした立ち位置の違いはあるが、株主とその他のステークホルダーが必ず対立軸として語られるという構造にあるわけでもない。

 そして、昨今なにか不祥事が起きるたびに、メディアは「ガバナンス不全」という言葉を使って糾弾する。そういったことからも経営者が従業員を監督するのがコーポレートガバナンスだと考えがちだが、これは「内部統制」である。コーポレートガバナンスとは、経営者を株主をはじめとしたステークホルダーが規律付けるものである。

「本来のガバナンスの定義は『株式会社の方向づけや業績を決定するに当たっての、さまざまな参加者間の関係』です。経営者は、ガバナンスを正しく理解して、シェアホルダーやステークホルダーの期待に応えるための将来シナリオを発信し、対話して納得してもらうことが重要です」