前回は「DX3つのドア」の第1のドア、「可視化のドア」について述べた。

※前回はこちら

 DXを推進していく上で最初に着手すべきは、社内のボトルネックを発見するために、課題となっている工程や事象を「可視化」していくことであるとお伝えした。

 また、具体的なアクションプランについては、

1.現行の業務や工程の中で「課題となり得る事象」を洗い出してみよう
2.1の事象の可視化(データ化)をするにはどんな方法があるか、考えてみよう
3.「可視化の目的」について、自分の言葉で語ってみよう 

の3点を提言させていただいた。

 自部門の中で、「課題となり得る事象」にはどんなものがあっただろうか?
 
 今回のテーマは、そこから一気に視野を広げていく話だ。第2のドア「全体最適のドア」について、語っていこう。

そもそも「全体最適」とは?

 「全体最適」とは、文字通り、「組織全体にとって最適な状態」を表す言葉だ。対義語として「部分最適」という言葉があり、これは「ある一部分が最適な状態」であり、平たく言うと「私の部門はこれでいいんだけど、ほかの部門は・・・さて?」という状態である。

 残念ながら、日本の企業はそうした部分最適な視点に陥りやすい。構造的に縦割りの組織であり、「上下」は見えても「左右」を見る機会は少ない。隣の部門のことをあれこれ気にする必要も、これまではなかったはずだ。

 しかし、いざ、DXで会社の課題を解決しよう、変革を起こそうという段階においては、この部分最適の視点が大きな障壁になる。組織の一部分だけにデジタルを導入したところで、トランスフォーメーションが起こるわけではないからだ。

「全体最適」を阻む一番の要因

 例えば、皆さんの会社で、こんなことは起こっていないだろうか?

 前回の提言通り、自部門の「課題となり得る事象」を発見できたとしよう。「どうやら、この工程に生産性を下げる要因があったようだ。よし! みんなでなんとかしよう!」

 そういって改善が始まる。それはもう実直に、これ以上改善しようがないほど徹底的に努力を重ねる。

 しかし、ふと、隣の現場を見てみるとどうだろう。全く改善などされていないし、無駄だらけ。皆さんがいら立ちを抑えながら「あなたのチームも、もっと改善したらどうですか?」と提案したとしても、「いやいや、営業からの指示が無茶苦茶で。改善どころじゃないんですよ!」などと、どうやらここでは「営業部の最適」が優先されているようだ。

 営業の先には品質管理やマーケティング、物流など、それぞれの部分最適が連なり、そこには目には見えない「境目」が生じる。この境目こそが、全体最適を阻害する要因であると、私は考えている。

組織と組織、部門と部門の間には、目には見えない「境目」が存在する。この境目に注目して課題解決の方向を探ると、おのずと「全体最適」の姿が見えてくる。出典:八子知礼著『DX CX SX』より
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