米国でIT(情報技術)の雇用市場が縮小している。米労働省のデータに基づく、米ITコンサルティング会社のジャンコ・アソシエイツの報告によると、2023年1月は4700人のIT人材が削減された。IT雇用市場の縮小は約2年ぶりだという。米ウォール・ストリート・ジャーナルが2月6日に報じた。
保護されていた人材も削減対象に
先ごろ、米アマゾン・ドット・コムや米グーグルなどの米テクノロジー大手が大規模なリストラ策を発表した。だが、IT職はこの1月まで、その対象から外れていたという。
米化学大手のダウは23年1月26日、全従業員の約5%にあたる2000人を削減すると発表した。米工業製品・事務用品大手のスリーエム(3M)は23年1月25日、2500人を削減する計画を明らかにした。これらテック部門以外の企業でも、IT人材はレイオフ(一時解雇)を免れることができていた。しかしここに来て状況が変化してきた。
米ブルームバーグによると、米大手銀キャピタル・ワン・ファイナンシャルは23年1月中旬に技術職を削減した。関係者によると対象人数は1100人以上。同行はウォール・ストリート・ジャーナルの取材に応じ、削減対象は技術部門の一部チームだと明らかにし、彼らの役割は今後、既存のエンジニアリングチームと製品マネジャーが担うと説明した。
ジャンコ・アソシエイツのビクター・ジャヌライティスCEO(最高経営責任者)によると、IT職の人員整理や自動化が目立っているのは、データセンター運用や電気通信の分野。それら企業の幹部は、エンジニアのようなテクニカルスキルを持つ従業員ではなく、“必須ではない”マネジャーやスタッフを削減しようとしている。
優秀な人材は不足
一方で、全体として見ればIT雇用市場は堅調との見方もある。業界団体のコンプティアによれば、テクノロジーセクターの雇用は不安定ではないという。また、ジャンコ・アソシエイツによると、サイバーセキュリティーやソフトウエア開発の分野では能力のある応募者が少なく、10万9000人超の空席が埋まらない状況だという。
米調査会社フォレスターリサーチのクリストファー・ギルクリスト氏は、「IT職は超過需要(人手不足)であり、他部門の従業員よりもレイオフの対象になる可能性が低い」と指摘する。
リスキリングに活路
こうした中、人材育成やリスキリングに活路を見いだす企業もある。
米半導体設計ソフト大手シノプシスのCIO(最高情報責任者)スリラム・シタラマン氏は「人材を巡る競争は現実に起きている。当社では採用コストを削減しながら、人材育成に力を入れている」と説明した。
仮想化技術やクラウド技術などを手掛ける米ヴイエムウェアは、リスキリング体制を整備したという。ジェイソン・コンヤードCIOによると、同社は機械学習や自動化といった新たなスキルのトレーニングに重点を置いている。「私たちを今日に至るまで導いてきたスキルは、これから行く先に私たちを導くスキルではない」(コンヤード氏)
つまり将来を見据えるということのようだ。
フォレスターのギルクリスト氏は次のように指摘する。「一部の企業はIT人材を削減しているが、短期的な削減に積極的になる必要はない。結局、将来遅れを取り戻さざるを得なくなる。むしろ現在のスタッフを再配置し、強みのある分野に集中したほうがよい」(同氏)