ビジネスに貢献し経営戦略を成功へ導くために、今、企業法務にはどのような変革が求められているのだろうか。法務部門が挑戦していくべき「リーガルDX」について、企業法務案件を取り扱う西村あさひ法律事務所パートナー弁護士の森田多恵子氏、横河電機法務部長髙林佐知子氏、丸紅法務部企画・開発課課長 兼 法務第三課長の河野祐一氏が活発な議論を展開した。
※本コンテンツは、2022年10月25日(火)に開催されたJBpress/JDIR主催「第3回 法務・知財DXフォーラム」のパネルディスカッション「ビジネスに貢献し経営戦略を成功に導く法務部門への挑戦」の内容を採録したものです。
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リーガルテック導入に関わる課題と狙い
森田多恵子氏(以下、森田) 昨今、電子署名システムの導入や株主総会のライブ配信など、デジタルに関わる相談が増えてきています。本日は、横河電機株式会社法務部長の髙林佐知子さまと、丸紅株式会社法務部企画・開発課課長 兼 法務第三課長の河野祐一さまをお迎えして、「ビジネスに貢献し企業戦略を成功に導く法務部門への挑戦」というテーマで、ディスカッションします。早速ですが、お二人が所属している法務部門についてご説明いただけますか。
髙林佐知子氏(以下、髙林) 当社の法務部では「法務機能が組織として経営や事業へ提供する価値を最大化していくにはどうしたら良いのか」をテーマに掲げて日々の業務に励んでいます。どうしても法務は「トラブル対応係」のように思われがちです。このイメージを払拭し、困った時や新しいビジネスを考える時に早めに相談したくなるような「コンサル型の機能を備えた集団」に生まれ変わるべく活動中です。人間にしかできない、知恵を組み合わせたソリューション提供型の仕事ができるチームを目指しています。
森田 「リアクティブ」から「プロアクティブ」な集団へと変革を進められている最中なのですね。河野さまがお勤めの丸紅は幅広いビジネスを取り扱っています。法務部はどのようにビジネスと関わっているのでしょうか。
河野祐一氏(以下、河野) 当社では「グローバル・クロスバリュー・プラットフォーム」を会社の在り姿として掲げ、商社の枠組みを超えた価値創造企業グループへの変革を目指しています。お客さまや社会の課題と向き合い、既存事業を強くしていくとともに新しい事業も確立していきたい考えです。そういった当社の在り姿を実現するためには、法務がリーガルリスクをマネジメントし、戦略の実行支援をしながら企業価値を守っていくことが重要だと捉えています。
森田 お二人とも明確な目的意識のもとで、法務の立場からビジネスや経営戦略に貢献されているようです。昨今、リーガルテックが注目され、テクノロジーの力で法務を変革させようという動きが加速しています。デジタルテクノロジーの利活用状況を教えてください。
河野 丸紅の法務部は、ここ5年間で電子請求システムの「eビリング」や電子契約システムである「e-sign」など、デジタルテクノロジーの利活用を進めてきました。さらに法務部全体の業務をプラットフォームで管理するため、2021年10月より「リーガルマターマネジメントシステム」も導入しています。デジタルの導入においては、ツールありきではなく、どういった姿を目指していきたいかを優先すべきだと考えます。法務部員にヒアリングしたり、コンサルの方やベンダーの方とディスカッションを重ねたりした結果、「情報を共有して、いろいろな人と協力しながらリーガルリスクマネジメント機能を提供する法務でありたい」ということが明確になりました。そこで前述のシステムを導入するに至ったわけです。
髙林 横河電機の法務部では部内のナレッジマネジメントに資するリーガルテックを一番の課題として捉えていますが、まだ模索中の段階です。われわれは20人ほどの体制なので、法務のためだけにインフラを導入するのは投資対効果という面でややハードルが高いと言えます。そのため、できるだけ全社の業務効率の改善につながるシステムの導入を優先しています。最近、情報システム部門の協力を得ながら、SharePointを用いたワークフローを使って、契約管理データベースをリプレースしました。
森田 具体的に導入されたリーガルテックはありますか。
髙林 部内の契約審査プロセスにおいては、ナレッジマネジメント、業務管理を兼ねて「Hubble(ハブル)」を活用中です。AI契約審査ツールは、国内ではまだ使っていませんが、海外子会社では、最近、「Luminance(ルミナンス) 」を使い始めました。契約の審査という点においては、まだわれわれの期待値に達していないと感じますが、検索機能に強い点でとても重宝しています。