ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アップルはiPhoneなど端末のセキュリティーを保護するため、サイドローディングされるアプリに条件を付けることを認めるEU新法の条項を利用する公算が大きい。この条件には、アプリのセキュリティーチェックやマルウェアスキャンを義務付けることも含まれると関係者は話している。

 一方で、アップルは、自社決済システムか外部決済システムのいずれかを利用者が選べるようにするか否かについて、また、どのように外部決済システムを利用できるようにするかについて、現時点で結論を出していない。

 ただし、デジタル市場法には、アップルのようなプラットフォーム企業に対し、外部サービスがプラットフォーム企業のサービスと同じアクセス権を持つことを認めるよう要求する条項がある。

 今後、利用者が外部決済システムを選べるようになれば、アップルは有料アプリやサブスクリプション(継続課金)、アプリ内有料コンテンツから徴収する販売手数料収入を得られなくなる、もしくは手数料収入が減ることになる。

 ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アップルは近年、その成長の原動力としてサービス事業に大きく依存している。21年におけるサービス事業の売上高は約680億ドル(約9兆600億円)だったが、App Storeの手数料収入はその約30%を占める。その営業利益は同社の営業利益全体の約10%になる。

オランダで外部決済、限定容認

 アップルはオランダの出会い系アプリに対して、外部決済システムの利用を認めている。オランダでは21年12月に、出会い系アプリ運営会社の苦情を受けてアップルを調査していた消費者・市場庁(ACM)が、アップルの行為は競争法に違反すると結論付け、同社に外部決済システムを認めるよう命じた。アップルは当局の決定を不服として控訴しつつ一定の譲歩を示したが、その対応は当局に認められなかった。その後数カ月・複数回にわたり罰金を科されたという経緯がある。ただ、オランダにおける同社事業への影響は限定的だとみられている。

 EUの欧州委員会は21年4月、アップルに対しEU競争法違反の疑いがあると警告する「異議告知書」を送付した。欧州委は、スウェーデンの音楽配信大手スポティファイ・テクノロジーなどがアップルの独自課金システムを利用するよう強制され、30%の手数料を徴収されていると指摘。アップルも音楽配信サービス「Apple Music」を手がけており、「(アップルは)自社サービスを有利にし、音楽配信市場の競争をゆがめている」との見解を示した。

 異議告知書は欧州委の暫定的な見解を示した文書で、アップルには反論の機会が与えられている。同社は欧州委の見解に対し、「スポティファイはiOS向けアプリ経由でサブスクリプションを販売しなくても成功している」と異議を唱えている。