その仕事とは、「NPI(New Product Introduction、新製品導入)」と呼ばれる業務。アップルのようなメーカーがEMS企業と協力し、製品の設計図とプロトタイプ(試作品)を基に詳細な製造計画を作成する仕事。何億台もの電子機器を製造するための重要な工程で、生産技術者とサプライヤーが集中している中国がこれを得意としている。
関係者によると、アップルは製造パートナーに対し中国国外でこのNPIをより多く行うよう試みてほしいと伝えた。サプライチェーンの専門家は、「もしインドやベトナムなどの国がNPIを担うことができなければ、彼らは今後も脇役にとどまるだろう」と話している。その一方で専門家は、「世界経済の減速とアップルにおける新規採用の鈍化を背景に、同社は新しいサプライヤーや新しい国でのNPIに人員を割り当てることが難しくなっている」と指摘する。
ウォール・ストリート・ジャーナルによると、アップルと中国は何十年にわたり相互に利益をもたらす関係で結ばれてきた。こうした中、変化は一朝一夕に起こらない。アップルはタブレット端末「iPad」やパソコン「Mac」などの製品を定期的に刷新していることに加えて、毎年新しいiPhoneを発売している。「エンジンを交換しながら飛行機を飛ばし続けるようなものだ」と同紙は報じている。
「ラクダの背中を折る最後のわら1本」
ただ、それでも製造拠点の中国国外移管は進行中だ。その動きは、中国の経済力を脅かす2つの要因によって進んでいるという。もはや中国の一部の若者は、裕福な人のために電子機器を低賃金で組み立てることに興味を持っていないという。彼らの不満の原因の1つは中国政府による強引な新型コロナ対策だが、それ自体がアップルなどの多くの西側企業にとって懸念事項となっている。新型コロナの感染拡大が始まってから3年がたち、多くの国が日常を取り戻す中、中国はいまだ隔離などの措置で新型コロナを徹底的に封じ込めようとしている。
加えて、中国における軍事力の急速な拡大と米国の対中関税などを巡り、米トランプ・バイデン両政権下で2国の軍事的、経済的緊張が5年以上続いている。
iPhoneの生産で70%のシェアを持つ鴻海はその大半を中国の鄭州工場で生産している。同工場では、22年10月下旬に新型コロナの感染者が確認され、工場と宿舎内に隔離されていた従業員らが集団で脱出する騒動が起きた。鴻海は人員補充のために新たな従業員を雇ったが、22年11月22~23日にはこれらの新人工員が手当や衛生環境の不備などを巡り大規模な抗議行動を起こした。
米ウェドブッシュ証券のダニエル・アイブス氏は、「中国の『ゼロコロナ』政策は、アップルのサプライチェーンに完全な打撃を与えた」と話している。「22年11月に鄭州工場で起きた混乱は、アップルの中国事業にとってラクダの背中を折る最後のわら1本だった」(同氏)という。