激しい変化に対応するためには、デジタルの力が必要
――2021年に、2030年までの長期経営計画「VISION2030」を策定され、そこにはDXによる事業基盤の強化が挙げられています。そして、2022年4月にはDXを加速させるための組織であるデジタルトランスフォーメーション推進本部を設置されました。御社のそれまでのDXの取り組みにはどのような課題があったのでしょうか。
浦川 DXの話を本格的に始めたのは、私が経営企画部に入った2019年ごろですね。当社は研究開発や生産技術においては、データ活用・デジタル活用が進んでいたものの、競合他社の動きを見ると、その他の部分で遅れているという実感がありました。そこで、DX推進室を立ち上げました。
現在、私たちの事業ポートフォリオは「ライフ&ヘルスケアソリューション」「モビリティソリューション」「ICTソリューション」「ベーシック&グリーンマテリアルズ」となっています。ソリューションと名前を付けているのは、これまで化学素材や加工品、材料などを販売していたビジネスから、ソリューション型のビジネスモデルの構築を指向しているからです。
ただ素材を売るだけでなく、他社と協業して、例えば、より薄く半導体ウェハーを削ることができる部材、空中で操作できる非接触POSレジディスプレー用プレートに使用する接着剤、介護ベッドに敷いて心拍数など患者さんの情報が取得できるセンサー材、メガソーラー発電施設のパフォーマンス診断など、素材を起点としたソリューションを展開しています。
それに加えて、温室効果ガス削減など、サーキュラーエコノミーへの対応強化と、競争力向上の両立も目指した改革も行っており、これらについては、DXがベースになっているのです。
――DXに関してはどのような戦略になっているのでしょうか。
浦川 仕事のやり方を変えていく業務変革の推進や、データをベースとした開発力の強化、先ほどお伝えした事業モデル変革を、デジタルを活用して推進していきます。また、そのためにITデータ基盤も強化しています。マインドとしては、慎重に要件定義をしていくやり方から、自らどんどん新しいことをやって失敗しながら、自律的に学んでいくアジャイルなやり方への変革を目指しています。
2022年4月にできたデジタルトランスフォーメーション推進本部は、コーポレートの組織で、私が所属するデジタルトランスフォーメーション企画管理部(DX企画管理部)のほかに、IT基盤に関わる情報システム統括部、業務改革推進室、サプライチェーンに関わる物流部、購買部があります。DX企画管理部では、主に事業本部と本社を対象にDX化を進め、先端デジタルツールの導入や、デジタルリテラシー教育等を担当します。
化学業界などのDX事例を200以上まとめた「DXリファレンスブック」も作っています。これを各事業部で読んでいただいて、自分たちでできそうなことを考えてもらっています。また、各事業部のチームリーダークラスの人で、事業に精通しながらデジタルに対するモチベーションが高い、あるいは得意な人を「DXチャンピオン」として、DX企画管理部に兼務していただいています。
――社員の皆さんにデジタル技術の研修などを提供しているのでしょうか。
浦川 DX教育ロードマップを作り、レベル0〜レベル3の4段階で教育プログラムを用意しています。データサイエンティスト協会のスキルの定義を参考にして、データサイエンス、データエンジニアリング、ビジネス力をカバーできる教育システムになっています。
レベル0は、データやデジタルの重要性を理解いただくプログラムで、昨年度に本体全社員が受講済みです。今年はレベル1のプログラムを展開し、先端デジタルツールを使って、データ分析ができるよう教育します。来年度にはレベル2となるのですが、これはAIを使って独力でデータ分析の作業ができる段階です。さらに上のレベル3は、AI活用のためのプログラミングができて、自律的に分析ができるような人たちです。