■〔シリーズ〕DX企画・推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」はこちら

 この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべきビジネス発想力の養成を目的としている。DXやデジタルビジネスの成功事例には「ビジネスの仕掛け」がうまく使われており、この連載ではそれが学べる。今回も「ビジネスの仕掛け」(シェアリング、プラットフォーム、オンライン化、クラウドファンディング〈購入型〉など)を単体で、または、組み合わせてビジネスを発想する考え方や事例を解説していく。

 今回のテーマはファンマーケティング(Fan marketing)である。

 例えば、あなたは「純米日本酒が好き」だとする。最初はあまり興味がなかったが、仲の良い友人に立ち飲みのお店に誘われ、全国の日本酒を試しているうちに、微妙な味の違いが分かるようになった。しかし、最近はやや熱も冷め気味で、新しい味にも出会えていないので、かつての感動が薄れつつある。

 ある日、1人で飲んでいると、バーテンから「酒蔵イベント」のチラシを手渡された。都心から2時間くらいの場所に酒蔵があり、新酒を飲めるイベントがあるという。QRコードを読み取るとSNSや動画サイトにいろいろな情報がある。酒蔵には行ったことがないので、あなたは早速、参加予約をする。

 週末に酒蔵に行ったあなたは出来立ての生酒(なまざけ)を飲み、仕込み水を味わい、蔵主から珍しい話を聞き、この酒蔵が好きになり、うんちくを語れるように、この酒蔵に頻繁に通うことになった。多くの酒の味、イベント、うんちくを語って友人を巻き込み、1年後に蔵主から任命されてこの酒蔵の運営を手伝うスタッフになった、、、これが消費者から見たファンマーケティングの事例である。

 事業者から見たファンマーケティングとは、ユーザー(消費者や顧客)に、商品やサービス、イベントなどの体験型消費商材を提供し、ユーザーの共感を醸成しながらファン化し、最終的に優良顧客(ロイヤルカスタマー)になってもらうことを期待する「ビジネスの仕掛け」のことである。

 ファンマーケティングは、商品やサービスが優れていることはもちろん、ユーザーに会社や商品・サービスを好きになってもらうことが必要である。そのため、ユーザーとの接点を増やし、自社のパーパスに共感してもらい、一緒に商品やサービスを成長させていく仕組みが欠かせない。この事例を紹介しよう。

ライバルブランドやコンビニへの対抗策が必要になったコーヒー製造会社は・・・

 インスタントコーヒーの製造会社があった。誰でも知っているブランドであったが、ライバルブランドや、コンビニコーヒーへの対抗策が必要になり、自社商品販売拡大のため、家庭で本格コーヒーを味わえる「専用コーヒーメーカー」を販売することになった。しかし、値段が高いこと、使い方が難しいことから、あまり売れなかった。

 困った販売部門の部長は、コーヒーメーカーを売る方法を社員に考えてもらうことにした。聞いた人は2人。1人はスーパーなどの小売店向け営業を担当しているベテラン社員のAさん、もう1人はコーヒーが大好きで、個人的にコーヒーイベントなどの活動をしている法人営業担当のBさんだった。