■〔シリーズ〕DX企画・推進人材のための「ビジネス発想力養成講座」はこちら

 この連載はDX企画・推進人材が身に付けるべきビジネス発想力の養成を目的としている。DXやデジタルビジネスの成功事例には「ビジネスの仕掛け」がうまく使われており、この連載ではそれが学べる。基本編となる第10回までが終わり、今回からは応用編。「ビジネスの仕掛け」(シェアリング、プラットフォーム、オンライン化、クラウドファンディング〈購入型〉など)を単体で、または、組み合わせてビジネスを発想する考え方や事例を解説していく。

 今回のテーマは「D2C(消費者直接取引)×サブスク(サブスクリプション=お客による定期購買)」である。この2つの「ビジネスの仕掛け」は、事業者には魅力的である。D2Cの魅力は、流通の中抜きが可能であり、商品価値を直接、お客に訴求でき、顧客情報の取得も可能である点である。また、サブスクの魅力は広告宣伝費や店舗でかかる販売費などを抑えながら継続的販売が可能になる点である。

 例えば、あなたは「最近、肌の張りがなくなってきて鏡を見るたびに気になっている」とする。最初はさほど心配はしていなかったが、これが1カ月も続くと次第に気が重くなってくる。ネットで検索すると、「加齢の影響で、放っておくと老いが加速する」と書いてある。

 あなたは、心配になってネットで「張りのある肌」と検索をする。サプリメントやクリームなどの商品が表示されるが、どれが良いのかが分からない。店やサロンに行ってもよいが、ネットには「店やサロンでは買えません」と書いてある。そこで、ネットで買えるものを試そうと、さらにネットで検索をする。

 すると、良さそうなクリームが目に入った。多くの人が「肌の張りが戻った」と感想を書いている。しかし、値段が高い。あなたは迷うが、初回は3割引だと書いてある。それなら、1回だけ試してみようと思う。しかし、効いた場合にずっと定価で買うのはちょっと・・・とも思う。

 そして、2回目以降は2つの購入方法が書いてあることに気付く。一つは定価で毎回注文するコース。もう一つは毎月定期購入コースで、こちらは1割も安い。あなたはもう迷わない。定期購入して、要らなくなれば、キャンセルすればよい・・・、これが消費者から見たD2C×サブスクの事例である。

「眠くなる風邪薬」の店舗での扱いが激減した製薬会社は・・・

 D2Cやサブスクは事業者側にはメリットが大きいので、多くの企業は、どのような商品でもD2Cやサブスクをやろうとする。服のD2C、家電のD2C、スポーツ用品のD2C、花のサブスク、服のサブスク、焼き肉のサブスク・・・、D2Cやサブスクの種類は多い。しかし、それらが全てうまくいくとは限らない。

 この組み合わせの一つの型として、消費者は「自分が欲しいもの、自分が困っていること」を解消するもので、それがネットでしか買えない場合に、D2Cやサブスクで買おうとする。つまり、消費者が定期的に欲しいもの、ネットでしか買えないが価値の高いものを提供することがD2C×サブスクの勝ち筋の一つだ。これを事例で説明しよう。

 ある製薬会社が市販薬として風邪薬を製造し、全国のドラッグストアで販売した。しかし、眠くなる成分が強かったので、仕事中や運転中など、起きていなければならない時間帯に眠くなってしまうとの噂が広がり、店舗での扱いが激減した。

 困った社長は、この状況をどう打開するかを社員に考えてもらうことにした。指名した社員は2人。1人は他の製薬会社から転職してきたAさん、もう1人はコールセンターで顧客の相談業務を担当しているBさんだった。