アップルなどは、できるだけ早く中国依存からの脱却を進めたいと考えるものの、何十年にもわたって構築された中国サプライチェーンのエコシステム(生態系)を断ち切ることは容易でないという。とりわけ中国はiPhoneの売り上げの20%を占めており、市場としても規模が大きい。これに対し、インド、ベトナム、マレーシア、タイ、インドネシアの市場は5カ国合わせても3.5%を占めるにすぎない。

インドが製造大国として台頭するには

 インドが今後、製造大国として世界で台頭するためには、輸出に配慮した政策や西側諸国との強力な貿易関係、物流分野への多額投資が必要だとウォール・ストリート・ジャーナルは指摘する。

 一方で、インドには微妙な文化の違いがあり、メーカー側がそれらを十分に理解しないとトラブルになる。21年12月には、約1万7000人が働く鴻海のインド工場で従業員寮の生活環境問題を巡る抗議活動があり、工場が約2週間閉鎖された。

 20年12月には緯創資通のインド工場で、数千人の契約社員が未払い賃金や労働時間を巡り暴動を起こした。防犯カメラや窓などの工場設備、車両などが破壊され、被害総額は6000万ドル(約75億円)に上ったと報告されている。

 インドの電子機器産業には進展がないわけではない。鴻海と緯創資通、和碩聯合科技(ペガトロン)の台湾3社はインドでのスマホ生産に5年間で総額9億ドル(約1130億円)を投じる計画だ。「PLI(プロダクション・リンクト・インセンティブ)」と呼ぶインド政府の補助金制度を活用するもので、鴻海は約400億ルピー(約660億円)、緯創資通は約130億ルピー(約215億円)、和碩聯合科技は約120億ルピー(約200億円)を投じる。

 インド政府は、携帯電話や特定電子部品の国内生産を後押しするために補助金を拠出する。19〜20年を基準とし、国内生産製品売上高の増加分に対して4〜6%の金額を5年間支払うという。

 アップルや鴻海などが参加するインドのスマホ関連業界団体「ICEA」によると、22年3月末までの1年間における同国のモバイル機器輸出額は推計59億2000万ドル(約7430億円)超。この金額は5年前の50倍に相当するという。

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