フォードとフェラーリの宿命の対決を描く感動作

●『フォード vs フェラーリ』(2019

 次にご紹介するのは1966年のル・マン24時間耐久レースを舞台に、当時最強だったフェラーリと挑戦者フォードの対決を描く『フォード vs フェラーリ』です。イタリアの老舗メーカーとアメリカの大手メーカーの闘いを描いた本作ですが、実は前述の『ラッシュ』でジェームス・ハントが乗るマクラーレンのエンジンはフォード製であったこと(フェラーリはエンジンも自社製)から、後につながるライバル対決の前段の闘いを描いた作品でもあります。

「レースに出るために市販車を売る」フェラーリと「市販車を売るためにレースに出る」フォードという真逆の文化を持つ2つの企業の闘いをフォードの側から描いた本作ですが、そうした企業ものの大枠を持ちながら、実はその実行者としてフォード社と時に対立しながらも自分たちの流儀を貫いていったレーシングカー設計者のキャロル・シェルビーとレーサーのケン・マイルズという、どちらかというと歴史の脇役である(あるいは一般的に知られていない)男たちの個を貫く闘いのドラマという本質が、より深い共感と感動を呼ぶ構造になっています。

『ラッシュ』同様に当時のレースの精巧な再現が大きな見どころになっている本作ですが、特にクライマックスとなる1966年ル・マン24時間耐久レースに至るドラマは、多くの映画人が魅力を感じた題材らしく、筆者の手元にある実録書『フォード vs フェラーリ 伝説のル・マン』(A・J・ベイム著 祥伝社刊/2010)の帯には「ブラッド・ピット主演映画の原作」と記載されていますが、残念ながらこちらの企画は実現しなかったようです(注:邦訳タイトルは2019年の映画と同じですが、映画の原作ではありません)。

映画『フォードvsフェラーリ』日本オリジナル予告