文=條伴仁 イラスト=日高トモキチ

 2021年シーズンのF1は歴史に残る接戦の末、12月12日の最終戦の最終周回でレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンが、メルセデスのルイス・ハミルトンを逆転優勝し、年間ドライバーチャンピオンとなり、この年限りで撤退するホンダに最後の栄光をもたらしました。

 そんな興奮も覚めやらぬうちに開幕した2022年のF1シーズン、3月20日に決勝が行われた開幕戦バーレーンGPは、これまで2年以上勝利から遠ざかっていたフェラーリが、予想を覆す見事な1・2フィニッシュをきめ、一方でレッドブルが2台ともリタイアという波乱の展開となりました。今年も新たなドラマの誕生に期待しつつ、今回はF1を中心にした「モータースポーツ映画傑作選」をお届けします。

 

伝説の1976年シーズンを描く傑作

●『ラッシュ / プライドと友情』(2013

 まず最初にご紹介するのは、昨年同様に歴史に残る接戦となったF1の1976年シーズンを、まったく対照的な二人ドライバーのライバル関係を軸に描いた『ラッシュ / プライドと友情』です。

 この年のF1は理論派とわれるフェラーリのニキ・ラウダと天才型といわれるマクラーレンのジェームス・ハントが最終戦まで激しい年間チャンピオン争いを繰り広げました。本作の見どころは何といっても、対照的な二人のドライバーの人間像を的確に表現した脚本のうまさと、世界を転戦するF1のサーキットやマシンの再現度の高さにあります。

 本作ではF1が転戦する各国のサーキットや、出走するすべてのマシンなどが40年以上の時を超えて鮮やかに再現されています。中でも、このシーズンの転機となる第10戦ドイツグランプリでのニキ・ラウダの激突炎上事故は、これまでニュース映像などで観てきた衝撃の瞬間がそれらを超えた鮮明さで再現されています。

 そして本作(及び、この年のF1)を語る上で決して忘れてはいけないのは、最終決戦の舞台が初開催の日本グランプリであったという点です。筆者と同世代には、当時、富士スピードウエイで開催されたこのレースで、初めてF1グランプリの一部始終を観たという方は多いかと思います。

 生命の危機を乗り越えて重傷から奇跡の復帰を遂げたディフェンディングチャンピオンのラウダと世界の頂点に向ってシーズン後半に激しく追い上げてきたハントが、最後の直接対決に臨んだ大一番ですが、運命は全く予想外の結末を用意していました(史実ではありますが、映画の結末でもあるので、あえて詳細を割愛します)。

 本作のもう一つの凄さは、この映画的には「アンチ・クライマックス」な史実を、そこに至るまでの適切で丁寧なストーリーテリングと、映像演出の力で感動の「クライマックス」としてきちんとまとめ上げている点にあります。脚本は後に『ボヘミアン・ラプソディ』にも原案として参加しているピーター・モーガン、監督は『ダ・ヴィンチ・コード』など数々のヒット作を得生んだロン・ハワード。脚本と監督の力がうまくマッチングしています。

 モータースポーツファンの方はもちろん、そうでない方も、いつまでも色あせない伝説の闘いを後世に伝えるスポーツ映画として必見の傑作です。

映画『ラッシュ/プライドと友情』予告編