文=今尾直樹
上映時間3時間弱の超大作
今回は自動車のレース映画といえば、かならず名前が出てくる「グラン・プリ」をご紹介したいと思います。1966年製作、アメリカでは同じ年の12月、日本では翌1967年2月に公開されました。上映時間3時間弱の超大作です。
この映画の見どころはなんといってもレース・シーンです。F1グランプリの臨場感を出すために、監督のジョン・フランケンハイマーは1966年の本物のF1グランプリのヨーロッパ・ラウンドに密着した。キャメラまで新しく開発して、走行シーンを撮って撮って撮りまくった。
映画で自動車を運転しているシーンは、たいていは後ろに別撮りした映像を流しています。およそ10年前、1955年につくられたカーク・ダグラスとベラ・ダーヴィ主演のレース映画「スピードに命を賭ける男」なんて、まさにそうです。でも、「グラン・プリ」はちがいます。ホントにジェームズ・ガーナーやイヴ・モンタンが実際のコースでF1カーを走らせているのです。
しかも、それをシネラマという大きな大きな、湾曲したスクリーンに映し出しました。当時、シネラマで観たひとたちは、スクリーンのなかに没入し、レーシング・カーのなか、レース場のなかに連れてこられて、まぁ、びっくりしたと思います。
この映画は、OVERTURE、前奏曲から始まります。イタリアのモンツァ・サーキットのバンクに突っ込んでいくF1レースの静止画に、OVERTUREの文字が大きく書いてある。オウヴァーチュアというのは「前奏曲」という意味です。♪たんたかたーん、たんたかたんたん、という軽快な曲が流れる。♪たんたかたーん、たんたかたんたん。これからどんなドラマが描かれるのか、期待は高まります。
ジェームズ・ガーナーの文字が白抜きで
前奏曲が終わると、配給会社のMGMのライオンが出てきて、がおー、がおー、と吠えます。そして、画面が真っ黒になって、ジェームズ・ガーナーの文字が白抜きで現れる。続いて、
エヴァ・マリー・セイント
イヴ・モンタン
三船敏郎
ブライアン・ベドフォード
ジェシカ・ウォルター
アントニオ・サバト
フランシス・ハーディ
アメリカ、フランス、日本、イギリス、イタリア、国際色豊かなF1を舞台に、国際色豊かな俳優たちが出ているんです。
そして、その真っ黒けからキャメラが引いていくと、黒いのがまあるくなって、はて、なにかしら? すぐにエンジンの排気管、F1カーのテールパイプの出口だとわかります。そして、GRAND PRIXと映画のタイトルが出ると同時に、ゔおんゔおん、とブリッピングのサウンドが轟いて、白い排ガスが吹き出ます。
それから画面がどんどん分割されたかと思うと、F1レースの場面があれこれ出てきます。タイヤ、プラグ、工具、観客の顔、顔、顔……。音楽はなしで、どくんどくんどくん、心臓の鼓動、ざわざわした現場の雰囲気を伝える臨場感のある音。そしてブリッピング。爆音。ドキュメンタリー・タッチです。