1960年代のF1をリアルタイムで活写した名作

グラン・プリ(1966)

 3作目はモータースポーツ、特にF1と映画を語る上で欠かすことができない名作をご紹介します。

 ここまで史実を忠実に再現した作品を2作続けてご紹介しましたが、本作は特定の史実ではなく、当時の状況を包括的に再構成した自由度の高いエンターテインメント作品です。

 一方で現代の視点から見ると1960年代のF1を同時代(1966年)に映画化した本作は、過去の再現ではなく、目前で起きている事象を映画にするというジャーナリスティックな価値を持つ側面が浮かび上がってきます。

 本作は年間ドライバーチャンピオンを目指して競い合う4人の架空のドライバーの闘いを、彼らの私生活やビジネスとしてのモータースポーツの姿を織り交ぜながら描くというものですが、それぞれにモデルになった人物が存在するといわれており、日本の名優・三船敏郎がホンダの本田宗一郎氏を想起させる役柄で出演しています。

『グラン・プリ』写真:Everett Collection/アフロ

 しかし何といっても本作の魅力は70mmスコープという、当時の最先端大型映像を前提に製作された点で、空撮やスプリットスクリーン(画面を分割して複数の事象を同時進行で見せる技法)を駆使したレースシーンの迫力は、今でも圧倒される迫力があります(1966年米アカデミー賞で編集、音響、音響効果の3部門で最優秀賞を受賞)。

 またマニアックな視点からは、現在のF1とは別世界のようなピット作業の様子やマシンのディティール、レーサー役で出演している実際のF1ドライバーたちの姿など、見どころが尽きない作品でもあります。